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  • 生成AIがもたらすパラダイムシフト ~業務効率化から顧客体験向上まで~

開発競争が激化する生成AI、DXの実現に向けた6つの開発軸

「DIGITAL X DAY2024」より、NTT 執行役員 研究企画部門長 木下 真吾 氏

阿部 欽一
2024年11月21日

技術動向4:AIエージェント/AGI(汎用人工知能)の実現

 AIエージェントは、「動的に変化する世界で自律的に意思決定できるAIモデルやアルゴリズム」あるいは「複数のAIモデルを組み合わせ、単一のモデルでは困難な高度なタスクを自動で実行できるシステム」などと定義されている。

 AIエージェントに関する最新研究として木下氏は、「利用者の要望や状況を理解し、LLMや外部リソースを活用して、利用者の代わりにタスクを実行する」というNTTでの研究を紹介する。

 ユースケースとしては例えば、カーナビに搭載されたAIが、ルート案内やホテル案内、グルメ予約など外部のWebサイトを活用してプランニングし、条件に合ったルート案内と旅行プランを利用者の代わりに作成するなどが考えられる(図4)。

図4:AIエージェントは、ユーザーに代わってタスクを実行する。図はNTTでの研究例

 NTTの研究テーマには「AIコンステレーション」も挙がる。「1つの巨大なLLMではなく、専門性や個性を持った複数のLLMを連携させ“集合知”により社会課題を解決しようというアプローチである」(木下氏)。大規模ソフトウェア開発や大規模プロジェクトマネジメントなどに対し、「AIに専門的な役割を与え、最適なプロジェクト進行をシミュレーションすることも可能になる」と木下氏は説明する。

技術動向5:マルチモーダル

 生成AIが扱うデータの対象を、テキストだけでなく、画像や動画、音などにも広げるのがマルチモーダル化である。木下氏は、「テキストや画像、動画などをいかに総合的に認識していくかがテーマになるだろう」と話す(図5)。

図5:テキスト以外のデータを扱うマルチモーダル化が進む

 同分野におけるNTTの最新研究に「概念フィルタ」がある。「黄色いボートが海を渡っている」という音声と、「少年たちが野球をしている」という2つの音声が混ざって録音されたデータがある際、AIに黄色いボートが写った写真を見せると、AIが、その写真の意味を理解し、文脈に沿った「黄色いボートが海を渡っている」という音声だけを抽出するようなフィルタリング技術である。

技術動向6:AI専用ハードウェアの開発

 生成AIの普及に伴いGPU(Graphical Processing Unit:画像処理処置)の開発競争が激化している。米NVIDIAの「NVIDIA B100/200」や米Intelの「Intel Gaudi 3」、米Microsoftの「Maja」など、AI専用ハードウェアの開発が進む。

 半導体競争ではこれまで、汎用のCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)から、画像処理に特化したGPUが登場し、それがAIの実行環境になってきた。今後は、AI処理に特化した「AIチップ」として進化していくという。

 「AIチップには、ディープラーニング専用チップや、言語モデル専用、『Transformer』というアルゴリズム専用チップなどがある。中でも今、競争が激しいのは推論専用のチップだ」と木下氏は説明する(図6)。

図6:汎用/画像処理に代わりAI処理専用の「AIチップ」の開発が進む

 例えば、推論専用チップの「Cerebras CS-3」は、「NVIDIA H100」と比べ速度は22倍、コストは5分の1を実証しているという。こうした技術革新により今後、「推論コストが安くなる可能性が出てくる」(木下氏)

 最後に木下氏は、AI開発・利用における電力消費問題の解決策としてNTTが研究開発を進める「IOWN:Innovative Optical and Wireless Network(アイオン)」を紹介した。2030年に向け、ネットワークから端末までに光電融合デバイスなどのフォトニクス技術を活用する構想だ。

 光電融合は、光技術による「伝送」と電子技術による「処理」を融合することで、「環境負荷ゼロ」「経済成長」など相反する要件を同時に実現可能にする技術である。「半導体チップ間の入出力の光化に続き、チップ内を光化した『光GPU』により消費電力を大きく下げる。電力効率を現在の100倍にするのが目標だ」(木下氏)という(図7)。

図7:NTTの「IOWN」では光技術と電子技術を融合する光電融合により電力問題など種々の課題解決を目指す