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  • 生成AIがもたらすパラダイムシフト ~業務効率化から顧客体験向上まで~

生成AIに「使わない」という選択肢はない、組織的な取り組みが働き方や企業文化を変えていく

「DIGITAL X DAY2024」より、CDOによるパネルディスカッション

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2024年11月25日

生成AI(人工知能)技術の進化が続く中、企業は、その活用に期待し適用先を見極めようとしている。コスモエネルギーHD、野村HD、ロート製薬のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進役員が、弊誌主催の「DIGITAL X DAY 2024 生成AIがもたらすパラダイムシフト」(2024年9月26日)のパネルディスカッションに登壇し、生成AI技術に対し企業は、どのように向き合うべきかについて意見を交わした。モデレーターは弊誌編集長の志度 昌宏が務めた。(文中敬称略)

――まずは自己紹介を兼ねて、各社のDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組み状況をご紹介ください。

ルゾンカ 典子 氏(以下、ルゾンカ) :コスモエネルギーホールディングス 常務執行役員 CDO(最高デジタル責任者)のルゾンカ 典子です。今の時代、DXは特別なプロジェクトではなく、ビジネスそのものに欠かせない要素だと感じています。

写真1:コスモエネルギーホールディングス 常務執行役員 CDO(最高デジタル責任者)のルゾンカ 典子 氏

 当社も最初は、少人数のチームが全体をまとめる形でスタートしましたが、特に重視しているのが“全員参加型”のDXです。社員一人ひとりがデータを活用しながらビジネスを進めることが大切だからです。その実現のために社員が「これをやりたい」と思ったときに先頭に立って支援するメンバーがおり、彼らが全体を推進する役割を果たしています。

池田 肇 氏(以下、池田) :野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長兼ウェルス・マネジメント部門マーケティング担当の池田 肇です。私は1990年に野村証券に入社し、国内営業や投資銀行部門を経て広報を担当してきました。2019年4月からはデジタル・カンパニー長としてDXの推進に携わっています。広報時代に感じた会社の課題からDXの必要性を提案したのがきっかけです。

写真2:野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長 兼 ウェルス・マネジメント部門マーケティング担当の池田 肇 氏

 従来は各部門が独自にデジタル化を進めていましたが、私たちは横断的なデジタルカンパニーとして部門間の協業を促進しています。今後は生成AIなどの新技術も活用しながら、さらにDXを推進していきたいと考えています。

板橋 祐一氏(以下、板橋) :ロート製薬 執行役員 CIO 兼 IT/AI推進室長の板橋 祐一です。当社は2024年に創業125周年を迎え、コーポレートスローガンを「ロートは、ハートだ。」とし会社のロゴも刷新しました。この背景には、当然デジタル活用を進めながらも「デジタルでできないことも大事にしていきたい」という考えがあります。

写真3:ロート製薬 執行役員 CIO 兼 IT/AI推進室長の板橋 祐一 氏

 当社が手掛けるのはスキンケアや医薬品です。他業界と異なり、デジタルによる破壊的イノベーションがすぐに起こるとは考えにくい。そのためデジタル技術の活用は主に業務プロセスの改革や変革に向けています。

生成AIの登場でAI技術が身近な存在になった

――生成AI技術の可能性を示した「ChatGPT」がリリースされた時、どのように感じられましたか。

板橋 :DXに取り組む上で、AI技術の活用は非常に重要だと考えています。しかし製造業では大量のデータがなく、品質管理など一部の分野を除けば当初は、それほど有効活用できる印象はありませんでした。ChatGPTの登場にも驚きはしましたが、仕事に使うには、まだ難しいと感じていました。

 しかし「ChatGPT 4.0」が登場し見方が変わりました。その可能性に期待し、当時取引していたスタートアップ企業が開発したAIシステムを導入しました。2023年春に社内での使用を始め、同年秋には、特に翻訳と要約、そしてPythonやExcelマクロなどコード生成分野で役立つことが確認できました。

池田 :ChatGPTが登場して半年ほど経った頃から「ビジネスパーソンの評価基準が変わるのではないか」と感じ始めました。従来は、期限までに完成度が高い成果物を仕上げることが求められていましたが、それが今では、早い段階で完成度が6〜7割のものを作り、それをベースに100%に近づけていくというように、仕事の進め方がシフトしてきています。以前なら6〜7割のものを用意するのにも優秀な人材が2〜3日かけていましたが、生成AIの登場により短時間でできるようになったためです。

 そうしたツールを積極的に活用し、業務フローや仕事の進め方そのものを見直す必要があります。当社では既に生成AIの使用率が50%に達しており、今や「使わない」という選択肢はなくなりつつあります。

ルゾンカ :生成AIが登場した時は「とてもありがたい」と思いました。私は長年データ分析に携わってきました。これまでは分席の前にデータを綺麗に整理するという手間がありましたが、それが生成AIにより不要になると感じたからです。

 従来のAIは一部の専門家のものでした。それが生成AIは誰にでも身近な存在になってきています。簡単に使えるため、AI技術導入への敷居を下げ、多くの人々にチャレンジ精神を促すきっかけになると考えています。