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  • 生成AIがもたらすパラダイムシフト ~業務効率化から顧客体験向上まで~

生成AIに「使わない」という選択肢はない、組織的な取り組みが働き方や企業文化を変えていく

「DIGITAL X DAY2024」より、CDOによるパネルディスカッション

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2024年11月25日

ROIにつながる環境を小規模で始め整備していく

――ただROI(費用対効果)が示せないと新しいことに取り組めないという企業は少なくありません。

ルゾンカ :ROIの判断は非常に難しい問題ですが、DXプロジェクトでは適切に算定する必要があります。多様な指標を用意し、小規模から始めて環境を整えていくのです。

 当社の場合、マイルストーンを設定しながら小規模に進め、成果が見込めれば拡大していく方式を採用しています。PoC(概念実証)を通じて効果が確認できれば迅速に進め、マイルストーンを設定してコミュニケーションを広げていくことが重要です。KPI(重要業績評価指標)は複数設定することをお勧めします。

池田 :当社がデジタルカンパニーを設立した理由の1つに、予算が限られている中でもPoCを始められる環境を作るためがあります。ROIを無視するわけではありませんが、ある程度の確認ができるまでは実験的に取り組むことが重要です。予算の判断に関わるメンバーも巻き込んで理解者を増やしながら、魅力的なユースケースを作っていくことも大切です。

 生成AIプロジェクトは、課題解決のために段階を踏んで進めるアジャイルな方法が適しています。従来の方法ではなく、新しいカルチャーを作ることで、今後の開発をより進めやすくなると考えています。

板橋 :生成AIは急速に進化しているため長期戦略は立てていません。しかし、自社独自のデータとノウハウを活用できる形に整理し、AIに学習させることは重要だと考えています。そのため、社内データのオーケストレーションに取り組んでいます。

 同時にデータガバナンスも重視しており、データのオーナーシップや使用者の役割を明確にしています。データに適切な意味づけをすることで、AIの効果的な活用が可能になります。皆さんにもデータガバナンスから始めてみることをお勧めします。

生成AIの利用だけでは差別化にならない

――生成AIの活用に対し今後の展望をお聞かせください。

ルゾンカ :生成AIはあくまでツールであり、それを使ってビジネスをどう変えていくか、その目的が非常に重要だと思います。どこで、何に生成AIを使うかを考える際には、解決したい課題を明確にする必要があります。私たちも、ビジネスの課題解決を中心に生成AIを活用しています。

 これから企業として、特に装置産業においては、現場での作業が重要です。しかし少子化が進む中では、人数の削減や、AIによる現場での的確なアドバイスなどが求められています。私たちが目指しているのは、安全を第一にしながら、働きやすい環境を作り、より仕事がしやすい状況を整えることです。

池田 :私たちは金融機関としてこれまで、顧客とのやり取りに人が対応してきました。ですが、そこで得たデータを十分にサービスに還元できていない部分があります。

 今後は多様なニーズに応じてカスタマイズされたサービスが求められます。生成AI技術を活用し、デジタルと対面サービスをシームレスに提供していくことが重要だと考えています。お客様の情報をどれだけ還元できるかが、サービスが選ばれるポイントになるだけに、積極的に取り組んでいきます。

板橋 :生成AIなどの新しい技術について2つの指摘があります。1つは、生成AIはパッシブなイノベーションだということで。PCの普及と同様に、いずれ全ての人が使うようになるでしょう。しかし、生成AIを使うだけでは競争力は高まりません。使わなければ生き残れないかもしれませんが、使うだけで勝てるわけではありません。企業の差別化には別の要素が必要だと考えます。

 もう1つは、カルチャーの面です。破壊的イノベーションは過去にもあり、その度に生き残る人と生き残れない人に分かれました。その違いは、変化を意識し、使いこなしていく姿勢にあります。企業文化や個人の生き方として、常に変化に適応する態度が重要です。現代が特別変化の激しい時代というわけではなく、どの時代にも変化はあります。それに早く適応する生き方が大事だと思います。

――みなさま、ありがとうございました。

写真4:モデレーターを務めたDIGITAL X 編集長の志度 昌宏