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  • AI協働時代の技能継承のカタチ〜技と知を未来につなぐために〜

教育業界における教員・講師の技能継承とAI活用【第8回】

西岡 千尋、朝倉 剛一(アビームコンサルティング)
2026年1月13日

技能継承におけるAIの活用可能性

 こうした教育業界における技能継承の課題に対し、AI技術を活用するための要諦は、暗黙知になっている優れた先輩教員・ベテラン教員の日々の指導記録をデータベースに蓄積して形式知化することと、それを参照・分析可能なデータとして活用させることにある(図2)。

図2:教育業界におけるAI技術を活用した技能継承の要諦

学習指導でのAI技術の活用

Step1:暗黙知の形式知化

 研究授業などで作成される指導案には「こういう場面では、こういう発問をする・こういう指導に切り替える」といった情報が記載されている。そこで、優れた先輩教員・ベテラン教員の指導案を元に、生成AI技術により児童生徒の行動ごと、授業中の場面ごとに、各教員の指導法に関する情報を抽出する。

 収集した指導記録は、児童生徒の雰囲気・授業場面・指導法などでタグ付けすることで、集中度合いや教科内容の理解度に応じてアプローチを変える指導法が形式知化できる。

 将来的には、授業の様子を録画し、児童生徒の表情や発言と、それに対する優れた先輩教員・ベテラン教員の指導法を組み合わせて集計・分析することで、集中度合いや教科内容の理解度を判断する力、それに応じてアプローチを変える対応力・指導法が形式知化できる。

 例えば「優れた教員は児童生徒が、こういう表情をした場合、こういうアプローチに指導を変える傾向がある。つまり、集中度合いが低い兆候の可能性がある」などである。

Step2:参照・分析可能なデータとしての活用

 形式知化された集中度合いや教科内容の理解度を判断する力、それに応じてアプローチを変える対応力・指導法のデータは、学校間・教員間で共有し、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)システムを構築する。教員は他教員の指導実績から「理解が追いついていない児童生徒の見分け方」「この単元における理解度が低い際の指導法」などを検索でき、AIシステムが提案する目の前の児童生徒に合わせた指導法を元に、暗黙知になっていた学習指導技能を学べる。

 将来的には、教え方が上手とされる教員の映像授業や、ゲーム感覚で熱中しやすい学習コンテンツを、児童生徒の学力に応じてAI技術がレコメンドし、それを児童生徒にタブレットで学習させる。授業中は、児童生徒の様子をリアルタイムに撮影・分析し、タブレットから学習進捗を収集する。

 そうしたデータを踏まえてAIシステムが教員にフォローの必要性と指導法を的確なタイミングに提案することで、教員は目の前の児童生徒に合わせた学習指導ができるようになると推察される。

生徒指導でのAI技術の活用

Step1:暗黙知の形式知化

 教員が日々の生徒指導で「児童生徒の、どのような観点を観察し、どのような指導をすることで、どうなったのか」を最小単位のテンプレートで記録する。児童生徒の行動ごと、学校生活の場面ごとに収集した各教員の指導法のデータを、生成AI技術を使って、児童生徒の観察観点・行動内容・指導法などでタグ付けし、心理状態や問題行動を読み取る力、状況に応じた児童生徒への指導の手札を形式知化する。

 将来的には、教室や廊下などでの学校生活の様子を録画し、児童生徒の表情や声のトーンと、それに対する優れた先輩教員・ベテラン教員の指導法を組み合わせて集計・分析することで、心理状態や問題行動を読み取る力、状況に応じた児童生徒への指導の手札を、教員の手間をかけずに形式知化できる。「優れた教員は児童生徒がこういう表情をした場合、こういう指導をする傾向がある。つまり、いじめを受けている兆候の可能性がある」などだ。

Step2:参照・分析可能なデータとしての活用

 形式知化された心理状態や問題行動を読み取る力、状況に応じた児童生徒への指導の手札も、学習指導と同様に、学校間・教員間で共有して、RAGシステムを構築する。教員は他教員の指導実績から「心理状態を読み取る手がかり」「元気がない児童生徒への初期的な接し方」などを検索でき、AIが提案する目の前の児童生徒に合わせた指導法を元に、暗黙知になっていた生徒指導の技能を学べる。

 将来的には学校生活の様子を撮影し、児童生徒の表情や声のトーンに加え、児童生徒の個人情報や性格等の属性情報、出欠状況などのデータも含めて分析することで、AIシステムが教員に的確なタイミングで指導の必要性と指導法を提案できるようになる。教員は問題行動に発展する前に、目の前の児童生徒に合わせた適切な生徒指導ができるようになると推察される。

個人情報やセキュリティの観点からのデータ蓄積・共有の課題解消も必要

 ただ教育現場において、個人情報やセキュリティの観点からデータの蓄積や学校間・教員間の連携は容易ではない。それでも学校・学習塾における技能継承は教育の質を支える生命線であるだけに、そうした課題を解消しながらのAI技術を活用した暗黙知の形式知化と、参照・分析可能なデータとしての活用は、次代の教育を切り拓く鍵になり得る。

西岡 千尋(にしおか・ちひろ)

アビームコンサルティング 執行役員・プリンシパル AI Leapセクター長。コンサルティングファームのマネジングディレクター、チャットボット開発企業のCDO(最高デジタル責任者)を経て、アビームコンサルティングに入社。テクノロジーとイノベーションによる社会貢献を進めるとともに、クライアント企業のDXやデータドリブン経営の実現を支援する。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。

朝倉 剛一(あさくら・こういち)

アビームコンサルティング 商社・コンシューマービジネスユニット シニアコンサルタント。金融・商社業界にて、データ分析や生成AIなどを活用したDX実現に向けた構想策定から実行までを一貫して支援。中学校/高等学校教諭1種免許状を保有。