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- AI協働時代の技能継承のカタチ〜技と知を未来につなぐために〜
教育業界における教員・講師の技能継承とAI活用【第8回】

製造業での技能継承に続き前々回から、デザイン業務、医師業務と他業種での技能継承に向けたAI(人工知能)技術の活用について考察している。今回は教育業界に焦点を当て、学校教育における教員の学習指導と生徒指導を中心に考察する。
学校現場の教員は今、デジタル技術で未来社会を実現する「Society 5.0」時代を前に、先行き不透明で予測困難な社会状況を背景に、児童生徒1人ひとりに応じた指導や探究的な学習の実施など、学習指導の高度化が求められている。しかし、不登校や、いじめ・暴力行為、特別な教育支援を必要とする児童生徒数の増加などにより、生徒指導の課題は一層、複雑化・困難化しているのが実状だ。
学習指導や生徒指導の高度化に対しては、行政主導の組織的な研修や、各学校における研究授業といった仕組みは整備されている。だが、多忙な教員に対し、優れた先輩教員やベテラン教員からの技能継承が思うように進んでいない。
経済協力開発機構(OECD)が小中学校段階の教員を対象にした2024年の『国際教員指導環境調査(TALIS 2024)』では、専門的な教員としての技能や知識、専門性、その他の資質を高めるための活動への参加の障壁として、小学校教員の82.8%、中学校教員の85.6%が「他にやるべきことややらなくてはならないことがあるため時間が割けない」と回答している。
教育業界における技能継承の課題は、学習塾など民間企業の講師においても同様だ。例えば、学習塾では進学競争の激化などを背景に保護者からの成績アップへの要求が一層高まっており、講師の技能継承は、より重要になっている。ただ学習塾でも、個別指導ニーズの拡大により講師1人当たりの準備・記録・保護者対応の負荷が増しており、学びの機会を確保するのが難しくなっている。
学習指導・生徒指導における技能継承の難しさ
教員に求められる資質は多岐にわたる。中でも学習指導と生徒指導の技能継承は特に重要だ。しかし、優れた先輩教員やベテラン教員の学習指導・生徒指導には暗黙知が多く含まれており、継承が難しい。その困難な部分と理由としては以下が考えられる。
学習指導における技能継承の難しさ
教員は授業中、教科書に沿って教科内容を教えるだけではなく、児童生徒の集中力が切れないような発問の工夫や、児童生徒の反応を見ながら、その場でアプローチを切り替える判断などが求められる。
例えば、優れた先輩教員・ベテラン教員は、児童生徒の表情や発言などから教科内容の理解度や集中度合いを判断している。「表情が固まっており理解が追い付いていない可能性がある」「ここで、つまずいている可能性があるので復習しよう」といった対応などだ。これに対し若手教員は、教科書や指導書に沿って進めるだけで手一杯なケースもあり、目の前の児童生徒に合わせた柔軟な指導は難しい。
このような児童生徒の表情や発言などを踏まえて、集中度合いや教科内容の理解度を判断する力は、授業経験を通して身に付くものだ。教科内容の指導法は、教科書会社の指導書などで形式知化されており、それは学べる。だが、集中度合いや教科内容の理解度に応じてアプローチを変える対応力・指導法は暗黙知であり、技能継承が難しいと考えられる。
生徒指導における技能継承の難しさ
生徒指導は、困難課題対応的生徒指導、課題予防的生徒指導、発達支持的生徒指導の3つに分類される(図1)。
例えば、朝のホームルームにおいて、優れた先輩教員・ベテラン教員は、出欠を確認し共有すべき事項を伝達すると同時に、出欠確認時の返事や表情などから児童生徒の心理状態を読み取っている。必要に応じて「返事に明るさがなくなってきているので、学校や家庭で問題が発生しているリスクがある」「まずはストレスを抱えていないか個別に確認しよう」など児童生徒の心理状態に応じた対応へと移る。これが課題予防的生徒指導だ。
児童生徒の表情や声のトーンなどから心理状態や問題行動の兆候を読み取る力は、方法論として教育心理学等で整理されている。しかし、児童生徒の問題行動が複雑化・困難化している昨今、これらの知識だけでは賄えない対応力が現場の“勘所”になってきている。心理状態や問題行動に応じた対応の“手札”は経験を通じて蓄えられる暗黙知であり、技能継承が難しいと考えられる。
