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  • AI協働時代の技能継承のカタチ〜技と知を未来につなぐために〜

「技能継承」から考える人とAIの関係とは【第11回】

西岡 千尋、滝本 真(アビームコンサルティング AI Leapセクター)
2026年4月13日

「AI Native」の時代には仕組みや人の役割が再定義される

 技能の主体はあくまで人だ。AI技術は、その技能が持続的に更新され、他者へ継承されるための環境を整える。このようにAI技術を位置づければ、技能継承に限らず、人とAIの関係そのものをどう捉えるべきかが見えてくる。つまり、人は目的を定め、状況を解釈し、最終的な意思決定と責任を担う主体である。一方のAIは、情報を整理し、過去事例を参照し、選択肢を提示することで思考を支援する。

 この観点から、人は“意味を与える存在”、AIは“構造を与える存在”と整理できる。この役割分担は、技能継承に限らず、あらゆる業務や意思決定に適用できる。人が判断し、その判断に責任を持つ。その周辺でAIが、参照、比較、問い返しによって人の思考を拡張する。こうした補完関係にあるAIは、単なる効率化のためのツールではなく、人の思考を支える基盤になる。

 近年、AI技術の進展は、単にツールを高度化するにとどまらず、業務や社会の前提そのものを変えようとしている。AIは“使うもの”から“存在することが前提になるもの”へと移行し、いわゆる「AI Native」の環境が現実のものになりつつある。そこでは、ルールや過去データに基づいて処理可能な領域では、人が担ってきた役割の一部がAIに置き換わることは避けられない。

 本連載では一貫して「人の判断と責任はAIに代替されない」という前提に立ってきた。AI技術の活用が進む中でも、最終的な意思決定や、その結果に向き合う主体が人であるという点は変わらないからだ。

 だからこそ、AIによる置換を単純に「人の仕事が奪われる」と捉えるのは適切ではない。人が担う役割は再構成され、より抽象度の高い判断や意味づけの領域へと移行していくと考えられる。

 一方で、AI技術が業務に深く組み込まれるほど、新たな課題も生まれる。AIへの依存が高まれば、人が自ら考える機会が減る可能性がある。判断プロセスがブラックボックス化すれば、意思決定の妥当性を検証しにくくなる。さらに、AIを介した意思決定においては、その結果に対する責任の所在が、あいまいになりやすい。こうした課題は、技術そのものというより、人とAIの関係が十分に設計されていないことに起因する。

人の判断を中心にAIを配置する「Human Centered AI」が重要に

 それだけに重要になるのが「Human Centered AI(人間中心のAI)」という考え方である。AIの能力や効率性を起点に業務を組み立てるのではなく、人がどのように判断し、意思決定し、どのような責任を担うのかを起点にAIの役割を設計するという思想だ。言い換えれば、AIを中心に人を配置するのではなく、人の判断を中心にAIを配置するということである。

 Human Centered AIは、人間優位を主張するものでも、AIの活用を制限するものでもない。AIが高度化し業務に深く組み込まれるほど、判断の主体と責任をあいまいにしないための設計原則として重要になる。AIは情報の整理や分析、選択肢の提示において大きな力を発揮するが、その結果に意味を与え、最終的な意思決定と責任を担うのは、あくまで人である。

 本連載では「技能継承」というテーマを通じ「人の判断をどう扱うか」という問いを繰り返し検討してきた。その延長線上にあるのが、人とAIの関係をどのように設計するかという問いである。AIが前提になる時代において、この問いは、特定の業務にとどまらず、組織運営や社会における意思決定の基盤にまで広がっていく。

 AI Native時代において問われるのは、技術をどこまで高度化できるかではない。どこまでをAIに委ね、どこからを自らが引き受けるのか。その境界を、個人や組織が設計し続けられるかが問われている。

西岡 千尋(にしおか・ちひろ)

アビームコンサルティング 執行役員・プリンシパル AI Leapセクター長。コンサルティングファームのマネジングディレクター、チャットボット開発企業のCDO(最高デジタル責任者)を経て、アビームコンサルティングに入社。テクノロジーとイノベーションによる社会貢献を進めるとともに、クライアント企業のDXやデータドリブン経営の実現を支援する。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。

滝本 真(たきもと・まこと)

アビームコンサルティング AI Leapセクター シニアマネージャー。大手通信会社においてプロダクトやサービスの企画・デザイン経験を積み、デザインコンサルにてUXデザインを活用した事業・サービス企画に従事。その後、戦略コンサルにおいてデザインを取り入れた戦略策定などを実施。アビームコンサルティング入社後はデザイン × ビジネス × テクノロジーの観点から、事業戦略立案からエグゼキューションまで一貫した支援を推進。iF DESIGN AWARD、Red Dot Design Award、HCD-Net AWARDなど受賞多数。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。