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- 今こそ問い直したいDXの本質
製品とサービスの関係にどんなパターンがあるのか【第14回】
製造業のビジネスとデジタルが結び付かないあなたへ
デジタルとサービスは相性が良い
さて、筆者の専門はDXでありサービスビジネスではありません。ではなぜPSSなどサービスを重要視しているのでしょうか。それは、サービスとデジタルの相性が非常に良いからです。
この点については、2022年にnoteに投稿された『B2B製造業DX コトはじめ』という記事が詳しいです。記事中の「コトの提供は、顧客のバリューチェーンのプロセス内部に介入していくことを意味しています」という指摘は慧眼で、クレイトン・クリステンセン氏の「ジョブ理論」とも通じています。
サービスビジネスには「IHIPモデル」と呼ばれる4つの特徴があります。
Intangible :サービスは無形である
Heterogenous :サービスは不均質である
Inseparable :サービスは不可分である
Perishable :サービスは手元に残らない
このモデルに対し同記事は、サービス提供における5つの難題を指摘しています。
難題1 :顧客が課題に取り組む時間/空間に居合わせること
難題2 :自律的な顧客の行動を予測し制御すること
難題3 :顧客ごとに微妙に異なる課題にフィットさせること
難題4 :顧客需要の量的な変動に柔軟に対応すること
難題5 :顧客との関係資産を築き、競争優位を得ること
そしてデジタルには、これらの難題を解決できるポテンシャルがあるとしています。
ポテンシャル1 :いつでもどこでもアクセスできる
ポテンシャル2 :点ではなく線として顧客を追跡できる
ポテンシャル3 :データに基づきカスタマイズできる
ポテンシャル4 :自由自在にスケールアップ/ダウンができる
ポテンシャル5 :サービス品質向上のフィードバックループが持てる
このようなシンプルな構図だけでも、サービスとデジタルがうまく噛み合うことが分かるでしょう(図2)。
DXにおける価値提供変革の本質
PSSと、サービスとデジタルの関係の枠組みを理解すれば、DXにおける価値提供の変革における本質が見えてきます。
例えば、環境負荷を抑えたいとか維持費を削減したいといった理由から顧客は、製品の利用を可能な限り減らしたいとします。このとき従来の製品を売るビジネスでは、利用を減らしたい顧客と、利用が減ると利益が減る提供者の間には緊張が走ることになります。
しかしPSSの「パターン8:成果保障のビジネスモデル」を採用すれば、提供者は自らの利益を減らすことなく顧客の消費量を減らせます。実際に成果を保証しようとすれば、顧客の成果を定量しなければならず、製品の消費量や利用方法を最適化する必要からIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術を使うことになります。
このように“PSS+デジタル”が提供価値とビジネスモデルを変容させ「顧客のバリューチェーンのプロセス内部に介入していく」ことで顧客の成功を助け、Win-Winの構図が実現できるのです。
最後に、サービスドミナント・ロジックに改めて触れておきます。筆者の理解ではサービスドミナント・ロジックは思想の一種であって、実用的なフレームワークやガイドラインではありません。
しかしサービスドミナントな発想を持つことで、無形や有形といった視点から解放され、顧客中心の価値創造を自然と志すようになるという点で非常に重要だと考えています。この、いったん解放された発想から、さまざまな可能性が模索されるとき、DXは最大のポテンシャルを示すのです。
磯村 哲(いそむら・てつ)
DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。中堅製薬企業のDX責任者を務めた後、現在は大手化学企業でDXに従事する。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。
