• Column
  • 今こそ問い直したいDXの本質

製造業はサービス化を必ず目指さなければならないのか【第13回】

製造業のビジネスとデジタルが結び付かないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年1月16日

前回、製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展していないように見える要因として、提供価値が“無形”か“有形”かに着目し“無形”部分はデジタルとの相性が良いと指摘しました。そのためなのかDXの文脈において「製造業はサービス化を目指すべきだ」と提言されています。ですが、それは本当なのでしょうか。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が指摘される中で、ここ何年か「製造業はサービス化を目指すべきだ」と言われ続けています。しかし、その理由について納得感のある根拠を少なくとも筆者は聞いた記憶がありません。よく聞く説明は「もはやモノでは差異化できないから」というものです。ですが、サービスなら差異化できるのでしょうか?

 一般にサービス業は、製造業よりも参入障壁が低く、競争優位性を確保するのが難しいとされます。そのため、単純なサービスビジネスでは、むしろ差異化には苦労する可能性が高いのが現実です。ですから製造業がサービス化を目指すべきかどうかは、もう少し真剣に考えてみる必要があります。

新製品を投入し続ける必要はある

 製造業がサービスビジネスに参入する際の成長戦略について、経営学者のイゴール・アンゾフ氏が提唱した「アンゾフの成長マトリックス」で考えてみましょう。アンゾフマトリックスは企業の成長戦略を「製品(既存・新規)」と「市場(既存・新規)」の2軸で4つに分類するフレームワークです。

 現在、モノを売っている会社が何らかのサービスビジネスに参入する場合は「今、自社にない何か」、すなわち広義の新規製品を提供するということですから、成長マトリクスでは右側になります。一足飛びに右下の「多角化」に行くのが難しいとすれば、右上の「新製品開発」、つまり既存市場に対して新たなものを提供するという形が自然でしょう。

図1:アンゾフの成長マトリックス

 そもそも、既存市場に既存製品を提供している左上の「市場浸透」の現状で満足であれば、成長戦略を考える必要はありません。しかし個々の製品にはライフサイクル上の限界があり、絶えず新しい開発を続ける必要があります。

 つまり、日常的に右側に少し進み、その製品が定着して左側に吸収されると、また新たに右側を目指して製品を開発するという活動を繰り返しているわけです。ですから、既存顧客に対し新製品を投入する代わりに新サービスを展開することは、戦略上は、ごく普通の発想です。では、その新製品として、新しいモノより新しいコトの方が相応しい理由はあるのでしょうか。

サービス化はトップダウンでなくボトムアップで考える

 さて、製品とサービスに対する考え方に「サービスドミナント・ロジック」があります。製品を中心に据えた考え方から、製品もサービスの一形態として区別しない考え方へのシフトを説くもので、2004年に『Evolving to a New Dominant Logic for Marketing』が発表されています。

 サービスドミナント・ロジックに基づけば製品を含むサービスの価値は(1)顧客が利用して初めて生み出される、(2)サービスの価値は多様な顧客が決める、(3)顧客は主体的な存在で価値は顧客と企業が共創するといった3つの特徴を元にビジネスをデザインすることになります。

 このモノとサービスを分けず全てをサービスと捉える考え方に沿えば、製品はサービスの一形態であり、その価値は顧客が利用して初めて生み出されます。逆に言えば、顧客が価値を感じる限りにおいて、モノやコトといった形態にこだわる必要はありません。

 つまりサービスドミナント・ロジックからは、広義のサービスを中心に考えるべきとは言えるものの、特定のビジネスに関して製品よりサービスを強く勧める理由は導き出せないのです。