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そもそも未来予測は役に立つのか【第15回】

未来予測は意味がないと思うあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年2月13日

予測は計画のためのツールだが、そもそも計画は必要なのか?

 1つの予測が当たらないのなら、複数の予測をすればいい。複数の未来予想図が、どこで分岐するのか、その主要な要因は何なのか。石油会社の英シェルは、起こりうる複数の未来をシナリオプランニングという手法でまとめることでオイルショックを切り抜け、同業他社との逆転に成功しました。これが未来予測を信じずに役立てる姿勢です。未来を考えて現在の行動を決めるという “バックキャスト” のお手本として良いでしょう。

 ノーベル経済学賞の受賞者であるケネス・アロー氏は面白いことを言っています。「司令官は、予測が役に立たないことを十分承知している。しかし、計画立案のために予測が必要なことも承知している」。つまり予測は、それを信じて従うにはあまりにも当たりませんが、視野を広げて計画を立てるのには有用なガイドになるというわけです。

 なるほど、未来予測は計画立案のために必要かもしれません。そこまでは譲歩するとして、そもそも計画は必要なのでしょうか?

 戦略の文脈では、創発的戦略や戦略不要論など、計画通りに事業を進めることの困難が久しく叫ばれています。ITのプロジェクトでいえば「事前に計画して後で遂行するという進め方は、ほぼ不可能である」と世間は渋々ながら認めつつあります。アジャイル(俊敏さ)開発などの手法が注目されるのは、そのためです。

 新規事業では「あらかじめ顧客が求めるものを明らかにし、後は、それを作るだけ」とった幻想はもはや誰も抱いていません。むしろ行き過ぎたデザイン思考をとがめる主張が出ているくらいに、緻密な計画が役に立たないことは常識になっています。

 このように、さまざまな分野で、計画を杓子定規に守ることの意義は完全に薄れてしまいました。VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代に重要なのは、実行と学習であって厳密な計画ではないのです。

 では計画は不要なのでしょうか。ここで先ほどのケネス・アロー氏のセリフをもじって言わせてください。「経営者は、計画が役に立たないことを十分承知している。しかし、資源配分のために計画が必要なことも承知している」。 計画がなければ、資源配分は決められません。意思決定もできません。

 数人で資源配分とビジネス遂行の全てを実行するようなスタートアップなら計画は要らないでしょう。しかし大企業においては、どこにヒトやカネを分配するのかの最低限は事前に決めなければなりません。予算は“Beyond Budgeting Model(年間予算を立案しない経営形態)”で今より柔軟になりうるとしても、配分の意思決定自体は残るでしょう。人材採用を考えるにも最低限の計画は必要です。

 未来予測に関して先に「信じずに役立てるべき」と指摘しました。それと全く同じ構図で、計画も信じずに役立てないといけないのです。言い換えれば、資源配分の意思決定が可能になるために必要十分な粒度の計画を立案すべきなのです。それ未満では有用でないですし、それ以上は無駄になります。意思決定の速度に追随できる計画立案でなくてはなりませんし、資源配分を決定するに足る内容でなければなりません。

未来予測も計画も用途が明確なら役に立つ

 しばしば有用性を疑われる未来予測を起点に、多大な工数を割いている計画立案や追跡に関しても、改めてその意義を考察してみました。「盲信せず便利に使うべし」というのが結論です。

 ただ実際には簡単なようで難しいと思います。意思決定のために計画があり、計画立案のために未来予測がある。頭では分かっていても、いざ作業したり調整したりが大変になってくると、単なる手段には思えなくなってくるからです。経営陣にとっては手段でも、ミドルマネジャーにとっては目的になってしまうこともよくあります。

 だからこそ、あくまで目的と手段の関係として、主客逆転しないよう意識しなければならないと思います。

磯村 哲(いそむら・てつ)

DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。