- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそも未来予測は役に立つのか【第15回】
未来予測は意味がないと思うあなたへ

米IBMの初代社長だったトーマス・ワトソン氏は1943年に「コンピューターのマーケットは世界で5台くらいだろう」と言ったとされています。ですが、その予想が、あまりに的外れだったことは今となっては明白です。「先が読めない」と言われるVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代において、未来予測は本当に必要なのでしょうか。
ノーベル平和賞を受賞したノーマン・エンジェル氏が「戦争のコストは高すぎるため、ヨーロッパ全般の戦争は非常に起こりにくく、起こったとしても長続きはしない」と語った、そのわずか5年後に第一次大戦が勃発しました。
生物学者のポール・エーリック氏は1970年に「今後10年間で、少なくとも年間1億〜2億人が餓死するまで死亡率は上昇する」と予言しましたが、そんな事態は訪れませんでした。
未来予測は専門家でも本当に当たらない
心理学と意思決定に関する著作を多数持つダン・ガードナー氏は、自身の著書『専門家の予測はサルにも劣る』において、専門家の予測が、ことごとく外れる様子を描いています。
これらのように、最大限ひいき目にみたとしても、未来予測が全て当たると期待するのは難しいことは明らかなようです。では未来はまるで見えないのでしょうか。未来予測は完全に無意味なのでしょうか。
未来を予測する手法は、いくつかあります。先のダン・ガートナー氏とフィリップ・テトロック氏の共著『超予測力』は、その思考法をまとめたものとして最も知られています。統計家のネイト・シルバー氏の『シグナル&ノイズ』も似たような論調です。要するに物事を一面的・断定的に見ている限り未来予測は、サイコロを振るより外れます。
米国の大統領だったハリー・トルーマン氏は、経済学者がすぐに「一方で(on the one hand)」と言った後に続けて「他方では(on the other hand)」と言うのが気に入らなかったことから「“片腕の”経済学者を連れて来い」と言ったのは有名です。ですが研究結果を見る限り、そんな都合のいい存在に頼ってはいけません。両面を見ない専門家の予測はあまり意味がないのです。
では多面的・確率的に見れば十分なのかといえば、確かに精度は上がりますが、それを信じて賭けられるほどにはなりそうにありません。ですから、未来予測を信じてはいけません。信じずに役立てねばならないのです。
ここで思考実験をしてみましょう。あなたは今、東京・日本橋で自転車に乗っています。舗装路を軽快に走れる、高級なお気に入りです。実はあなたは「遠く西の方に目的地がある」と言われて旅の準備を考えています。さて、あなたが今、できることは何でしょうか。
ヘルメットとウェアや着替え、パンク修理の応急キットやライトや鍵、水と食料、お金やスマートフォンとモバイルバッテリーなど持ち物リストを作るかもしれません。怪我をしないよう準備運動もできれば、友人と旅先で食事を楽しもうと連絡を取り合ったりもできるしょう。ここで、漠然と「西の方」とされていた目的地が明らかになります。
ローマ。……ローマ!?
目的地が分かったあなたが、できることは何でしょうか。少なくとも、あなたが今、走っている道はローマに通じてはいないので、いくら自転車を漕いでも目的地には着きません。そうなるといろいろ考え直さなければなりません。飛行機はどの空港から出るのか。チケットはいくら掛かるのか。この自転車を売ったら足りるのか、足りなければアルバイトをするのか。
ここで気付いていただきたいのは、不思議なことに、目的地が漠然としていたときよりも、ローマだと分かった後のほうが、あなたにできることが増えていることです。正確には、目的地が分かって初めて「自分にできることが、もっとあった」と気付くということです。