- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそもデータ駆動は仕事にどう役立つのか:意思決定編【第18回】
データの重要性がいまひとつ腑に落ちないあなたへ
おそらく多くの読者は、この程度の説明では満足できないでしょう。それは教育において「なぜそうなるのか考えよ」という姿勢をしつこく追及されてきたからか、あるいは生得の思考方法かは分かりませんが、人間は目撃した現象に必ず理屈を付けたがるからです。
理論物理学者のレナード・ムロディナウ氏は「人間の頭は、出来事1つひとつに対して一個の明確な原因を特定するように作られているため、無関係な、あるいはランダムな要素の影響を受け入れることは容易ではない」と指摘しています。つまり、自分の体験が“単なる偶然の結果”だとは思えない傾向があるのです。
しかしデータサイエンスは「人間を含む自然界の現象の多くが乱数に支配されており、未来は過去の類似状態に乱数を加えたものになる」という極めて荒っぽい立場で予測します。「歴史はだいたい繰り返され、よく見れば未来は過去と似たパターンを示し、そこに理由があるとは限らない」というのがデータサイエンスの根源的な思想なのです。
データは信用せずに利用する
ここまで言い切れば、データ駆動に感じる違和感がはっきりしたと思います。データ駆動の世界観は「極めて稚拙であり、用途は限定的であり、信頼に足るものではない」と思われるかもしれません。
ですが、そんなデータサイエンスは人間よりも高い物体判別能力があります。データサイエンスでは、世界最高のスパコンよりも人間行動を予測でき、ほとんどの人間よりも上手に翻訳ができます。これはデータサイエンスが凄いのではなく、人間やスパコンの側に苦手な領域があるためです。
従って私たちが取るべき態度は「データを信用せずに利用する」ことです。データの長所を引き出し、短所を理解すべきです。データ駆動がアメリカで発展したのは偶然ではなく、功利的な、プラグマティックな態度で付き合うべき技術だからだと思います。
ここまで、評価と意思決定を明確に分けて議論してきました。データサイエンスは評価能力に大きく資するけれども、最終的にどう決断するかは別の議論だということを示したかったからです。
データサイエンスは、人間でもシミュレーションでも手に負えないような複雑系を楽々と取り扱い、魔法のような精度で予測ができる一方、本質的な変化に弱く原理原則を理解していないという短所や限界があります。
そんなデータサイエンスを駆動力とすべきか、短所などを考慮し、あくまで参考にとどめるべきか。そして、それに代わる人間の評価能力をどこまで信用すべきかを、改めて考えることが重要です。
データ利用には段階を上れば自動化に行き着く
一般的に、ITによる評価が意思決定に資する形式には大きく2つあるとされています。1つは人間の意思決定の参考になるという形、もう1つは意思決定を自動化するという形です。
しかしこれは、筆者の考えでは、人間の介在度合いの違いであって連続的なものです。データを利用するには「可視化・要因分析・予測・最適化」の4段階があるという考え方をガイドに、その連続性を考察してみましょう。
可視化はデータ利用の基本です。可視化だけでも業務プロセスが改善するケースは多く、有用性に疑問の余地はありません。しかし意思決定の文脈では、可視化は評価のための気付きに過ぎず、評価自体は人間が行うことになります。
次の段階である要因分析が行われると、理解と対処のポイントがはっきりし、評価が迅速かつ容易になります。しかし要因が分かるというのは理解を助けることですので、確かに評価の精度が高まりますが、意思決定に際して必ずしも決定的な役割を果たすとは限りません。
その後、予測ができるようになると、人間が下す評価は、かなり容易になります。アルゴリズムは人間に先回りして、さまざまな予測を提示し、人間はそれを受けて総合的に評価します。ここまでくると、データが意思決定を駆動し始めていると言えるでしょう。
最適化の段階になると、人間が選ぶべき選択肢をアルゴリズムが提示してきます。最適化も最初は、候補が未熟で人間が却下したり訂正したりしなければならず、人間の介在は避けられません。しかし学習が進み洗練されてくると、もはや人間の承認が時間の損失になるため、自動化された意思決定というプロセスが採用されることになるでしょう。
なお本稿では、評価は作業の結果を受けて行われる形で説明してきました。ですが、外部情勢など作業以外の情報から評価し意思決定を下すケースもあります。その場合も、今回論じた「評価とデータ利用の関係」は同様だと思います。
磯村 哲(いそむら・てつ)
DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。