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- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそもデータサイエンスは“普通”の技術の1つにすぎないのか【第22回】
データの重要性がいまひとつ腑に落ちないあなたへ
越境性を活かせる意外な組み合わせが存在する
正常性バイアスにとらわれず、本気でデータサイエンスの越境性を活かせば、どんなことが起こるのでしょうか。筆者の経験をいくつか紹介します。
例えば、医療と人事は似ています。ある個人が、良いこと・悪いこと・さまざまなことを経験し、そこに本人の特質が絡み合うことで、病気に掛かったり回復したり、昇進したり離職したりします。
筆者が両分野のデータを解析した感覚では、データモデルはほぼ同じですし、表面的なデータしか取れない状態でモデリングしなければならないのも似ています。つまり、医療で強力な手法が生み出されれば、人事にも使える、あるいは、その逆にも可能性があるということです。
教育や金融なども似ているかもしれません。もしそうなら、従業員のジャーニーを“まるっ”と見るような組織を作りデータサイエンスを適用する合理的ということになります。実際、米国ではメンタルヘルスから資産形成、結婚相談まで従業員向けサービスを包括的に提供する「EAP(Employee Assistance Program)」というビジネスがあり、その売上高は1社で5000億円を超えます。これらの分野の近さを示唆していると言えるでしょう。
ITのインフラ管理と工場の設備保全が似ているのも想像が付くでしょう。普段は何事もなく落ち着いていて、時系列データが定常的に流れ込みます。しかし異常が起こると、さまざまなデータが乱れ、即時対応しなければなりません。早期発見が重要であり、さらに言えば、異常が起こる前に予測できれば理想的というニーズも同じです。
同じアルゴリズムが使えるなら、ITや生産設備などを問わず、インフラチームは共通になるでしょう。車や船、飛行機なども同じアルゴリズムが使えそうな気がしますし、ヘルスケアのウェアラブルデバイスや気象などにも応用できるかもしれません。
囲碁や将棋と研究も似ています。囲碁や将棋は、何手も先を読んで結果を予測し、有利な状況になれるような手を選択します。製薬や材料の研究も、1回の実験で完璧なものを作るのではなく、反復的に試行しながら、どの方面を掘り下げるべきかを見定めていきます。
このアルゴリズムは恐らく、広告やデザイン、マーケティングなど、クリエイティブでフィードバックサイクルが回るタイプの業務には共通ではないでしょうか。であれば、経営戦略・研究・マーケティングなどをまとめた「クリエイティブ統括組織」がデータサイエンスを駆使する形になるかもしれません。
データサイエンスの導入そのものがイノベーション
冒頭で説明したように、データサイエンスは個々の中身は理解していませんし、データとデータサイエンティストだけで完結する訳ではありません。それぞれの分野の専門家との協業が不可欠です。しかし、先に分野を決め、後からデータサイエンスを適用しようとすると、データサイエンスの越境性を活かせません。
データサイエンスが、いつ・どこで越境できるのか、それぞれの分野の専門家では分かりません。だからこそ、データサイエンティストは、いつも幅広い分野に関わり、ある分野の漸進的な改善が、別の分野では飛躍的な進歩をもたらす可能性を虎視眈々と狙うべきなのです。つまりデータサイエンスの導入は、異分野の技術と新結合し、物議を醸すという点で、典型的なイノベーションです。
先に説明したように、従前の専門性を活かせば活かすほど、その取り組みが起こす摩擦はなくなります。ですが、それこそがイノベーションから遠ざかるアプローチであることに気付く必要があります。正常性バイアスが働きがちな日常にあっては、イノベーションのための機会損失を意識的に避けなければならないのです。
磯村 哲(いそむら・てつ)
DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。