• Column
  • 今こそ問い直したいDXの本質

そもそもデータサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな職業」なのか【第23回】

データの重要性がいまひとつ腑に落ちないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年6月12日

前回、データサイエンスへの最近の評価を考察し、データサイエンスが持つ“越境性”こそがイノベーションを生むと指摘しました。それと同時に筆者は最近、データサイエンティストの存在価値も下がってきているのではないかと感じています。「21世紀で最もセクシーな職業」との評価は間違っていたのでしょうか。

 データ分析やAI(人工知能)技術の活用においては、データサイエンティストのほか、データアナリストや機械学習エンジニアといった役割の必要性が指摘されます。3者の役割の違いは以下です。

●データサイエンティスト:データ解析を中心に、統計の理論やアルゴリズムなどを専門とする人材
●データアナリスト:ビジネスの場でデータを活用する人材。可視化を主なツールに、経営陣のダッシュボードを作ったり、営業の進捗を確認したりします
●機械学習エンジニア:ソフトウェアやインフラの知識を持つITエンジニアであって、機械学習の技術も習得した人材。予測アルゴリズムをシステムに組み込んだり、手早くプロトタイプを作ったりして、機械学習が利用者の手に届くための実現手段を持っています

データサイエンティストの守備範囲が狭くなっている

 筆者が最近感じているのは、データサイエンティストが、データアナリストと機械学習エンジニアの両者に挟まれ守備範囲が狭くなっているのではないかという点です。

歴史ある「データアナリスト」

 データアナリストは、データサイエンティストが話題になる前から存在する職業です。「データを見ながら経営を判断したい」というのは自然な発想ですし、経営ダッシュボードが最初に流行ったのは1990年代だとされます。その後、利用者自身がデザインできるセルフサービス型のBI(Business Intelligence)ツールが勢いを増し、最近は生成AI(人工知能)技術を使って自然言語で操作できる製品も登場しています。

 データアナリストの仕事は、ビジネス全体の把握を容易にしたり、ある観点で絞り込んで要因を明らかにしたりすることです。データの可視化だけで不十分な場合には、統計解析を利用したり、その延長として機械学習を扱ったりもします。データ活用を高度化するという形でデータアナリストが仕事の範囲を広げる過程で、データサイエンティストの役割を担うようになってきているのです。

 とはいえ、なぜデータサイエンティストが可視化の領域に活動範囲を広げるのではなく、データアナリストが機械学習の領域に進出するのでしょう。その理由の1つは、データアナリストのほうがビジネスニーズと密接な位置にいるからです。

 データアナリストは、ビジネス上の必要性を敏感に感じ取れ、実現手段として可視化や機械学習を使い分けています。専門家としての技術レベルはデータサイエンティストに劣っても、機械学習のプロセス構築を支援するソフトウェアなどの機能が高まったことで十分な精度が出せ、データサイエンティストに声を掛けるまでもない状況が生まれているのです。

エンジニアの進出「機械学習エンジニア」

 ITを用いて何らかの機能を提供しようとすれば、アルゴリズムだけでは実現できません。ソフトウェアやインフラ、セキュリティなど、さまざまな知識と技術を総合する必要があります。そんなITの専門家たちが、データ活用を自分で担おうと乗り出してきて成立した役割が機械学習エンジニアです。

 機械学習エンジニアからみれば、機械学習はシステムの中のひとつの機能でしかありません。データベースを読み書きしたり、利用者がシステムとやり取りしたりするのと同様に、データを投げると計算結果を返してくれるものです。ですから、ライブラリーの挙動をある程度理解できれば、それをシステムに組み込むのはお手の物です。

 エンジニアが機械学習を実装する環境は充実しています。インターネットに豊富にある解説や、生成AIが支援するコーディングなどが利用できる中で、エンジニアの守備範囲は非常に広くなりました。もはやデータサイエンティストを必要とせずに、通常のシステム開発と同様のプロセスで機械学習システムを開発できるのです。

 このケースでも、なぜデータサイエンティストがエンジニアリングをカバーするのでなく、エンジニアが機械学習をカバーする形になったのでしょうか。その理由の1つは、エンジニアが機械学習を学ぶほうが、データサイエンティストがIT全般の知識を学ぶよりも、学習コストが低そうだということがあります。

 2020年頃は、機械学習プラットフォームやノーコード開発が主流になれば、エンジニアの存在価値が下がり、データサイエンティストが広くカバーするのではないかと言われていました。現在も生成AI技術によりコーディングのハードルは下がり続けています。しかし実際には、IT全般の知識は非常に広く、かつ拡大を続けており、ツールでは十分にカバーできなかったということかもしれません。