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  • 今こそ問い直したいDXの本質

そもそもデータサイエンスは“普通”の技術の1つにすぎないのか【第22回】

データの重要性がいまひとつ腑に落ちないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年5月29日

DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要視される前後から「データサイエンス」への注目・期待が高まっていました。しかし最近のデータサイエンスは“陳腐化”しているように筆者は感じています。陳腐化といっても「専門家の独占が崩れた」とか「スタートアップの競争力が高まった」といった話ではありませんむしろデータサイエンスが“ごく普通の技術”として扱われていることへの懸念です。

 データサイエンスが流行った最大の理由は“強力な越境性”、すなわち、さまざまな分野・領域に適用できることです。

 例えば、コンピューターによる勝利が最も難しいとされてきた囲碁において、英Google DeepMindが開発した「AlphaGo(アルファ碁)」が2016年に世界トップ棋士を破りました。同社のCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)であるデミス・ハサビス氏は、タンパク質の構造を予測する「AlphaFold(アルファフォールド)」が評価され、2024年にノーベル化学賞を受賞します。

 現在、第3次AI(人工知能)ブームだとされますが、その中心にあるデータサイエンスは、さまざまな分野で専門家が積み上げてきたノウハウを粉砕しながら世界を席巻しているのです。しかし最近の論調は、データサイエンスの“越境性”とは逆方向にみえます。「AI技術の適用には、その分野に特化した性能が重要」「業務知識がなければ結局は上手くいかない」とった具合です。

“越境性”の強みを正常性バイアスが押さえ込む

 そもそも、データサイエンスが、なぜ越境性を持つかといえば「中身を理解しない」からです。

 特定の分野に特化したアルゴリズム(具体的な手順・方法)をゼロから作ろうとすれば、清涼飲料の需要予測向け、書籍の推薦システム向けなど、際限なく細分化した研究開発が必要になります。しかしデータサイエンスは、内部をブラックボックスにしたまま、膨大なデータの入出力だけを学習することで一定のパターンを見いだします。その仕組みが単純で“暴力的”だからこそ、さまざまな分野に使えるのです。

 ディープラーニング(Deep Learning)ブームの先駆けになった画像解析でも、近年の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)でも結局は同じです。大量のデータ、それを上手く学習できるアルゴリズム、現実的な時間で処理できる大型コンピューター、優秀なデータサイエンティストが勝負を決めています。つまり「データ・アルゴリズム・コンピューター・データサイエンティスト」の4点セットが揃えば、データサイエンスは、どんな分野の問題も解けて不思議はありません。

 ではなぜ最近、分野ごとの専門性が叫ばれているのでしょうか。1つには「データ不足」があります。データサイエンスは、データがなければ無力です。AIブームに乗ろうと思っても、十分なデータがなければスモールデータを扱わざるを得ません。その場合、“データ量の暴力”に頼れない以上、分野ごとの問題に丁寧に寄り添ったアプローチが必要になります。ただ、それだけではありません。

 ブラウザーの開発者であるマーク・アンドリーセン氏が『Why Software Is Eating the World(なぜソフトウェアが世界を食っているのか』を書いたのは2011年でした。その後、確かにIT企業が経済を牛耳る形になっています。

 しかしDXの象徴ともされる、レンタル大手の米Blockbusterがオンライン配信の米Netflixに、玩具販売大手の米Toys“R”Usがオンライン販売の米Amazon.comに壊滅させられて以降、そうした“破壊”が起き続けているかといえば、案外そうでもないようです。

 その背景には、既存の事業者側がデータサイエンスを取り込み、災難を免れたことがあるかもしれません。いわゆる“両利きの経営”に成功しているということです。ですが、そんな成功例は、ごく一部のようにみえます。多くの場面では、思ったより破壊が進まないことに安堵・安住し、危機を矮小化する「正常性バイアス」が働いていると考えられます。

 人間の歴史を振り返れば、どれだけ外部に危機が訪れようと内部抗争を繰り返す例は枚挙に暇がありません。目に見える危険が迫っていても、それまでに積み上げた立場だったり、新参者を認めないプライドだったりを優先する人は少なからずいます。まして目に見えない危機であれば、一致団結して臨むより自分の利益を優先する人が多いでしょう。

 デジタルは目に見えないからこそ抵抗に合いやすい。まして、内部から変革しようとすれば格好の攻撃対象です。しかし、DXに反対するには上手いロジックが見当たらない。結果、上手く矮小化し安全な範囲に閉じ込める作戦が採られるのです。市場を破壊するのでなく既存製品を強化する、組織を改編するのでなく特定のプロセスを自動化するなどです。こうして越境性を特徴とするデータサイエンスは翼をもがれ、ごく一般的な新技術の枠に収められてしまうのです。