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そもそもデータサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな職業」なのか【第23回】

データの重要性がいまひとつ腑に落ちないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年6月12日

そもそもは「(2009年から)今後10年で最もセクシー」だった

 こうして、現場に近いデータアナリストと、実装に強い機械学習エンジニアに挟まれたデータサイエンティストの存在感は低下しています。ただ、この状況は、データ活用という意味では決して悪いものではありません。機械学習やAIといった技術が特別なものではなく、ビジネスに近い形で使われつつある進化の結果だといえるからです。

 そうした状況下で筆者が伝えたいのは、データサイエンティストが「自分たちは安泰だ」と思い込んでいることへの警鐘です。

 2012年、ハーバード・ビジネス・レビュー誌が『Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century(データサイエンティスト:21世紀で最もセクシーな職業)』という記事を掲載しました。同じ年に米Googleがディープラーニングに関する論文を発表し、第3次AIブームが始まっています。

 そもそもは、Googleのハル・ヴァリアン氏が2009年に「the sexy job in the next ten years will be statisticians(今後10年で最もセクシーな職業は統計家だ)」と言ったのが始まりです。ただ、ハル・ヴァリアン氏が言った「10年」という数字が、先の記事では「21世紀」へと広がっています。

 そのハーバード・ビジネス・レビュー誌は、先の記事から10年が経った2022年に同じ著者が『データサイエンティストは、いまもなお「21世紀で最もセクシーな職業」なのか』という記事を掲載しています。同記事を要約すれば次のような主旨になり、筆者の主張にも近いものです。

 「2012年に想定したデータサイエンティストは、データサイエンスの活用に必要なすべての仕事ができると考えていた。しかし現在では、このような仕事の多くをこなすための関連職が増えている。機械学習エンジニアやデータエンジニア、AIの専門家、アナリティクスとAIの翻訳者、データ志向のプロダクトマネジャーなどだ。
 データサイエンティストという仕事の最も重要な点は、予測モデルをつくることに加えて、ビジネス課題を読み解き、それを解くうえでの要件をモデルに変換する能力に移行しつつある」

 ちなみに、この記事の筆者の1人であるトーマス・ダベンポート氏は、データのビジネス利用における第一人者で、2007年に『分析力を武器とする企業』という先進的な書籍を残しています。同書と、同年に発行された『その数学が戦略を決める』(イアン・エアーズ著)、少し前の『ヤバい経済学』(スティーヴン・レヴィット/スティーヴン・ダブナー著)の3冊が企業におけるデータ活用の道筋を描いたと筆者は思っています。

データサイエンティスト含め安泰な職業はない

 現在、データ活用の価値はいよいよ高まっています。それに伴い、さまざまな職種がデータと関連付けられるようになり、結果、当初は広範な役割を期待されていたデータサイエンティストの守備範囲は徐々に狭くなりつつあります。そんなデータサイエンティストの生き残る道は何でしょうか。

 1つはデータアナリストの方向です。よりビジネスに密着し、機械学習にこだわらず可視化なども引き受け、幅広くデータ活用に貢献します。状況に応じて適切な技術を提供するという意味では、このスタイルこそ“あるべき姿”だと感じる方も多いのではないでしょうか。

 機械学習エンジニアになる手もあります。ただしIT全般は圧倒的に広く、知識だけではない思考方法も関係するだけに、簡単な道ではなく相応の覚悟が必要でしょう。

 先に記事を引用したダベンポート氏は、データサイエンティストにビジネス分析寄りを期待しているようです。データサイエンティストがビジネス分析に関われば、目的と手段が一貫したデータ活用の形をデザインできます。

 とはいえ、この場合も、ビジネスにおけるデータ活用全般を対象にした知識体系である「BABOK(Business Analysis Body Of Knowledge:バボック)」を修めた本職のビジネスアナリストがデータサイエンスを学ぶという逆の動きも忘れてはいけません。ただ日本では、ビジネスアナリストが少ないため、機械学習エンジニアを目指すよりも競争は少ないかもしれません。

 個人的には、研究寄りを推したいと思います。データサイエンスでは研究と実業の距離が非常に近いからです。例えば物理や化学、生物など他の技術系の研究では、最終的な商品化に至るには数年から数十年も掛かることがあります。ですがデータサイエンスでは、新しい方法を現場で試すのに一週間も掛かりません。

 本当に斬新な研究はGoogleなどビッグテックに太刀打ちできないかもしれませんし、アカデミアには強力な研究者が揃っています。しかし、アルゴリズムを改良し“サクっ”とプロトタイプまで持っていくことは、データサイエンティストが活躍できる姿ではないでしょうか。

 最もセクシーな仕事のはずだったデータサイエンティストは、この分野が予想以上に盛り上がったからこそ、逆に賞味期限が短くなった可能性があります。もっとも、ヴァリアン氏の予言通りなら「10年」後の2019年には賞味期限は終わっており、想定外というほどではないのかもしれません。

 「IT業界はドッグイヤー」と言われるほど変化の速い世界において、安泰な職業など存在しないという当たり前の話かもしれません。さらに、生成AIがどこまでの仕事を担えるかという問題も急浮上しています。データサイエンスも例外ではないことを思い出し、キャリアを真剣に考える必要があります。

磯村 哲(いそむら・てつ)

DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。