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そもそも今の仕事はAIエージェントを求めているのか【第25回】

AIの広がる姿が想像できないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年7月17日

生成AI(人工知能)技術の進展に伴い注目が高まっている利用方法の1つがAIエージェントです。AIエージェントを利用できなければ、今後の競争に勝てないとまで言われています。しかし実際にAIエージェントは、どんな機能を持ち、どういう仕事をしてくれるのでしょうか。現在の人間の仕事の仕方をヒントに、改めて、その位置付けを考えてみます。

 「AI(人工知能)エージェント」という言葉は実は、しばしば物議を醸します。というのも、最近のLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)界隈は、昔からある言葉の定義を無視する傾向があり、古参勢の神経を逆なでしているからです。AIエージェントもその1つです。「汎用人工知能 (AGI:Artificial General Intelligence)」なども同じでしょう。

 ここで最終的に扱いたいのは、AIエージェントという言葉の定義ではなく「利用者が何を求めているか」という点です。その理解を深めるために、まず “自律”という切り口から考えてみたいと思います。

“自律”という概念自体が難しい

 AIエージェントという言葉のうち「エージェント」という部分には、あまり異論が出ません。エージェントは、人間の代わりに何かのタスクをこなしてくれる人や機能を指し、その意味は一般に広く認識されているからです。問題は「AI」と「エージェント」が組み合わさったときです。

 AIエージェントは、かつては「自律的に振る舞うもの」のみを指していたように思います。“自律”という概念自体、難しいものですが、筆者は、コンピューターが人の自律神経のように自律的に自己管理できることを目指す「オートノミックコンピューティング」における「MAPEループ」のようなものだと捉えています。

 つまり、特定の目的を事前に与えられた環境下に置かれ、指示されることなく状況を「Monitor(監視)」し、データを「Analyze(分析)」し、分析結果に基づき「Plan(計画)」を作成して、アクションを「Execute(実行)」する。このM・A・P・Eのループを繰り返しで目的を達成するというものです。

 これに対し、最近のAIエージェントという言葉の使い方は「人間の代わりに何かのタスクをこなしてくれるソフトウェア (エージェント) が、高度な判断能力や生成能力 (AI) を備えたもの」を指しているようにみえます。RPA(Robotic Process Automation)のようなルールベースのワークフローではできることが限られるのに対し、AI技術が加わることで柔軟性を獲得し、実用的な役割を担えるというニュアンスです。

人間の業務は自律的なのかワークフロー的なのか

 AIエージェントを論じるには、現在仕事を実行している人間を論じる必要がありそうです。では営業部門を想像してみてください。あなたは営業担当者として、客先との重要な商談に臨むに当たり、上司に同行を求めており、そのための資料を準備しています。

 上司は多くの部下を抱えており、個別の商談の細かなことは覚えていません。ですから、客先で上司が的確なやり取りをするためには、さまざまな情報を事前にインプットする必要があります。顧客の基本的な企業情報、先方のニーズ、興味のある自社製品、商談の進捗状況、先方の懸念点などを簡潔にまとめなければなりません。

 一通りの情報を資料に記載したところ、上司から「顧客の財務状態と、面談相手の組織図がほしい」とリクエストされました。営業担当者は「なるほど、確かにそういった情報が必要なのか」と判断し資料に加えることにします。

 このやり取りを聞いていた先輩が「他の顧客における同じ商材の評判を加えておくと上司が喜ぶ」と教えてくれます。秘書は「上司はいつも前日の夜に資料を見るので、夕方に送付するといい」とアドバイスをくれます。こうして資料に含める項目や送付のタイミングが最適化され、上司はあなたを「デキるやつ」と感じるようになりました。

 さて、このとき、あなたは自律的なのでしょうか。それともワークフロー的なのでしょうか。上司が求めるのは、どちらに近いのでしょうか。

 あなたは当初は自律的に振る舞おうとしていましたが、上司のフィードバック、先輩と秘書のアドバイスなどで行動が修正された結果、ワークフロー的になったように見えます。このように、もし人間における“仕事ができる”ということが「ワークフローを確立する」ことだとすれば、ソフトウェアもワークフロー的なほうが制御しやすく結果も正確なように思えます。

 他方、よく「自分で頭を使え」と言われますが、これは何を意味するのでしょう。それが「状況を見極めて適切なワークフローを選択せよ」ということであれば、ソフトウェアにも、ある程度は実装できます。

 上の例でいえば、顧客の重要度や求めているニーズの難易度に応じて、少し早めに資料を作り、補足説明も付け足せばよいのかもしれません。他の事業部の製品もクロスセルで売り込める可能性があるとか、先方と当方の社長同士が同じ大学の友人だとか、その程度ならワークフローの条件分岐で十分に実現可能です。