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そもそも今の仕事はAIエージェントを求めているのか【第25回】

AIの広がる姿が想像できないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年7月17日

 業務における、もう1つの重要な点は“説明性”でしょう。例えばソフトウェアに「明日の訪問でのアイスブレイクを考えて」と聞いたとき、単に話す内容だけが出力されても自信を持てないのではないでしょうか。「担当者の趣味は〇〇、避けるべき話題は〇〇、前回の話題は〇〇なので、これがお薦めです」といった納得感がほしいと思います。

 そうした説明が必要だとすれば、ソフトウェアの内部でも人間が理解できるように考えねばならず、ワークフロー的になっていきます。つまり、出力の確実性だけでなく、説明性の面でもワークフローが有利なのではないかと想像します。

自律的かどうかは仕事 (タスク) で決まる

 以前、あるITベンダーと話していて印象的な言葉を聞きました。「基本的にホワイトカラーの仕事はワークフローである」というものです。なるほど、確かに頷けるところがあります。何かのきっかけでタスクが発生する、誰かがアサインされ作業が実行される、その作業結果が誰かに受け渡されて次の作業が発生し、最終的に承認者まで行って完了する、という具合です。

 ですから、仕事を助けてくれるソフトウェアが自律的かワークフロー的かという議論の前に、仕事自体が自律的かワークフロー的かを問わなければならなかったのです。仕事そのものがワークフロー的であれば、支援したり代替したりしてくれるソフトウェアがワークフロー的であるべきなのは自明です。だとすれば、ワークフロー的ではない、自律的な仕事とは何かを問わねばなりません。

 例えばマネジャーを考えてみます。経営学の巨匠、ヘンリー・ミンツバーグ氏は「マネジャーには3つのカテゴリー、10の役割がある」としています。10の役割は以下です((『H. ミンツバーグ経営論』、ヘンリー・ミンツバーグ、ダイヤモンド社から一部改変)。

■対人関係 :(1)組織の看板、(2)従業員のモチベーター、(3)対外窓口役
■情報伝達 :(4)社内外の情報収集、(5)情報提供、(6)スポークスマン
■意思決定 :(7)起業家、(8)問題対処、(9)リソース配分、(10)交渉

 この中でも、何かに対処するリアクティブな役割はワークフロー的でしょう。情報収集/伝達、スポークスマン、問題対処、交渉などは、全てAI技術に任せるのは難しいにせよ、ワークフロー的なソフトウェアが助けてくれる姿は容易に想像できます。一方で組織の看板役を果たし、起業家的に変革を仕掛ける仕事は全くワークフロー的ではありません。

 マーケターや研究者などクリエイティブな職種であっても、マネジャーと同様に、ワークフロー的な業務と自律的な業務が混在しているはずです。別の言い方をすれば、自律的かワークフロー的かは、職務 (ジョブ) ではなく仕事 (タスク) で決まっているように見えます。

ワークフロー的タスクを任せた先を考える

 さてここで、ビジネスの世界で有名な「人はドリルを欲するのではない。穴を欲するのである」という格言を念頭に置いたとき「人はAIエージェントを欲している」のでしょうか。

 タスクを片付けたがっている人は、それが自律的かどうか、AI技術かどうかに関わらず、役に立つ手段を求めているはずです。一方で、自律的に動くAIシステムそのものが欲しい人もいるでしょう。それは、穴を開けたいというより、格好いいドリルで穴を開けるのを楽しみたい人と同様です。移動のために車が欲しい人もいれば、運転を楽しみたい人もいます。

 ですから本当は「欲しいものを使う」だけの話なのです。AIエージェントでは“人工知能”という言葉が強すぎるせいで賛否両論になってしまっています。これが例えば「お役立ちエージェント」「気の利くソフトウェア」のような名前であれば、ここまで物議を醸さないのではないでしょうか。

 かつては、かな漢字変換すら「AI」と呼ばれていましたが昨今は、技術の名前すら話題になりません。こうした陳腐化した技術からは「AI」の呼び名が外されていくことを「AI効果」と呼びますが、そう考えれば「AIエージェント」の呼称問題もきっと今だけなのでしょう。

 それよりも重要なのは、ワークフロー的なタスクを「気の利くソフトウェア」に任せられるようになった姿を想像することかもしれません。そうしたソフトウェアを使いこなして大量の仕事をこなすのか、それとも自律的で創造的な方の仕事を引き受けるのか、いずれにせよ働き方は変化していきそうです。

磯村 哲(いそむら・てつ)

DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。