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- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそも経営者には好奇心が不可欠なのか【第32回】
DX人材像がイメージできないあなたへ
大人になり薄れる好奇心を補うには無理にでもインプットする
改めて確認すべきことは「好奇心がなくても仕事はできる」ということです。好奇心がなく、組織外や社外に本質的な興味がなくても、今日を無事終えることはできます。明日も大丈夫でしょう。
そして、急に不意を打たれ不本意な出来事が起こったとしても、それは不運のせいにできます。突如として予期しないトレンドが巻き起こったとしても、すぐさま追随できなかったのは自社だけではありませんから、経営者の能力不足ではなく不可抗力と見なせるのです。
そう考えれば、本業と無関係な妄想に付き合って時間を無駄にするよりは、目の前のことに集中した方が、よほど生産性が高いですし、顧客の期待にも応えられます。正直、この考えに破綻はないと思います。仕事観だからです。加えて好奇心には生来の性格もあるでしょう。
ですから、好奇心がなく、好奇心なしにこれまで素晴らしい業績を上げてきた人に「何か新しいことに、頻繁に興味を持て」と言っても無理なのです。そうできるとも限らないし、それ以前に本人には、そうする理由もありません。
仮に希望があるとすれば「興味は知識に牽引される」ということです。知らないことには興味は抱けません。本当は、さまざまな事柄に興味を持つ性格にも関わらず、新しいことに触れる機会がないばかりに好奇心がないように見えるだけかもしれないのです。
多くの人は、子供の頃は好奇心を持っていました。それが大人になるにつれ、失敗したり忙殺されたりするなかで好奇心を発揮する機会を失い、良い意味でも悪い意味でも分をわきまえるようになっていきます。それで社会的に成功するなら、なおさらです。生まれつき好奇心がない人が多いのではなく、社会に順応する過程で徐々に失っていくと考えるべきでしょう。
アートや研究は、インプットが不足すると、たちまちアイデアが枯渇します。アーティストや研究者などにとって好奇心は“おまけ”ではなく“必要な素養”です。新しいことに興味を失い、目の前のことだけに集中すると、何年経っても代わり映えのしないアウトプットを生み出し続けることになるからです。
そのことをアーティストや研究者は経験から知っています。ですので、時に気が進まなくても、異分野の人と交流したり未知の分野に触れたりして、インプットを途切れさせないように努力しているのです。
経営も同じかもしれません。好奇心そのものは強制できませんが、新しい情報に触れることで、いくばくかの好奇心が惹起され、見えていなかった危機や機会に気付くことがあります。同じものしか見ていなければ、毎日努力する社員、良質な製品、満足な顧客に安心してしまうでしょう。
であれば、経営者同士の集まりに意味があるのは当然になります。研究者が論文を読むように経営者はニュースをチェックし、アーティストがコラボレーションをするように経営者は会合に出席するのです。
好奇心に殺されないためにはダイバーシティが重要に
そんな経営者には、猫と違って好奇心に殺されないための仕組みが必要になります。それを筆者は「ダイバーシティである」と考えています。独りで考えたり、よく似た人々で物事を決めたりすると、新しいことは危ないばかりです。しかし、異なる背景の人々が、それぞれ好奇心を発揮することはプラスに働くと考えています。
一般に好奇心の強さは人によって異なりますし、出身国や性別、キャリアなどが異なっていれば、その違いはより大きくなります。経営陣が、そういった多様なメンバーで構成され、さまざまな視点で議論すれば、視野がさらに広がると同時に、独りでは気づけない落とし穴を回避できます。互いの視点を尊重しつつ、相手の発言に興味を持つことで、建設的な議論が促進されます。
もしかすると「経営者にとって最も必要なのは好奇心」という指摘は、経営陣がチームとしてワークするための条件ではないかと思うくらい重要なことかもしれません。言い換えれば、経営陣が所管する領域の代表として振る舞うのではなく、所管領域を会社に貢献させるためのチームとして振る舞い、CEOすらも自らを経営陣のチームの一部と見なすことが重要なのです。
9.11の同時多発テロやスペースシャトルのチャレンジャー号の事故は、多様性がなかったり議論が不足したりしていたために防げなかったとされています。経営判断においても、個人や同質な集団のみでなされる限りにおいて、同様のリスクを含むでしょう。
ある人には全く見えていなかった落とし穴が、ある人には明白過ぎて注意喚起の必要すら感じないことは往々にしてあります。だからこそ思い込みを排除できる、忌憚のない議論が必要なのです。結果として好奇心が単純な失敗に直結することを防ぐのです。
磯村 哲(いそむら・てつ)
DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。