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そもそもDX人材はなぜ転職せず自社の変革に取り組むのか?【第31回】

DX人材像がイメージできないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年10月16日

本連載ではDX(デジタルトランスフォーメーション)がなぜ必要かを繰り返し述べてきました。ですが、あなたがDX人材になり自社の変革に携わる理由には、まだ不十分かもしれません。DX人材不足の中、就業条件の良いコンサルティング会社や他社などへの転職の道も開かれています。それでも自社のDXに関わる理由は、どこにあるのでしょうか。

 「やりたいこと」ができる会社は、あなたが今いる会社だけではありません。伝統的な企業や変革への動きが鈍い企業に、あえて残留してまで一発逆転を狙う必然性はありません。創業者や大株主でもない限り、会社を移って勝ち馬に乗る方が、よほど居心地がいいし成功の確率も高いでしょう。

 それにも関わらず、DX人材として自社の変革を提案し、皆のモチベーションを高め、幾多の困難を乗り越えようとする理由は何なのでしょうか。

業績評価や報酬は階層型組織の報奨制度

 企業変革論の重鎮である米ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授であるジョン・コッター氏は「変革に業績評価や報酬は重要でない」とし、以下のように答えています(著書『実行する組織』、ダイヤモンド社より)。

 なお、ここで出てくる「ネットワーク組織」というのは企業変革のための組織横断的な繋がりで、「階層組織」というのは日々の業務を遂行するための、通常の組織のことです。

問:ネットワーク組織では、 メンバーは分担した仕事について、どのように説明責任を取ればよいのか。各人の業績評価に、どのような基準を適用すべきか。実績に対して、どのような報奨制度を用意すべきか。

答:まさに階層組織的な質問だ。階層組織では、これらをきっちり決めておかないと仕事は効率よく進まないと考えられている。だがネットワーク組織では、説明責任、評価基準、報奨制度といったものは重要ではない。大切なのは、危機感、コミュニケーション、権限分散、個人のリーダーシップ、そして「是非とも、これをしたい」という情熱とワクワク感だ。

 つまり変革に重要なのは「内側から湧き出るモチベーションだ」というわけです。しかし、そのモチベーションは、どこから来るのでしょうか。

 もちろん、終身雇用を前提とするなら、そこに必然性はあります。将来の自分の居場所を確保するためです。会社が倒産あるいは縮小してしまったら、将来の収入源が絶たれてしまいます。社会的にも辛い立場に置かれますし、家庭でも居心地が悪いでしょう。

 ですが、もしそれが唯一の理由なら、例えばシニア層は変革に従事する理由がありません。このまま逃げ切った方が遥かに楽ですし、リスクも少ないからです。終身雇用が暗黙の前提だったとしても、自分だけのためを考えるなら、変革に従事するより他社でも通用するポータブルなスキルを身に着ける方が、確実性が高いかもしれません。

 あるいは、株主に選ばれ変革を“使命”とされた取締役なら、変革に邁進するでしょう。自分のクビが変革の成功に掛かっている以上、なりふり構わない強硬な手段で株主価値を最大化するしかないからです。これまでのやり方の多くを否定する必要がありますが、それは会社の持ち主たる株主の決断であり、自身はそれを実現する手段になります。

 そういった人や、その人が連れてきた実行部隊にとって、変革はほとんど“目的化”しています。変革の必要性を疑う必要はなく「How(どのように)」の議論で終始すればよいという考えになります。ただ実際には、経営における株主至上主義は終焉を迎えつつあります。そもそも強硬な変革を求める株主が多くはないことを考えれば、このケースをDXの文脈でメインに語る必要はないでしょう。