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マスターデータ管理で複数SaaSの“正しい情報”を1つにする【第6回】

高坂 亮多(セゾンテクノロジー CTO)
2025年12月10日

SaaS(Software as a Service)は今や企業活動には欠かせない存在になりました。ただ複数のSaaSの導入が進むと「営業システムと会計システムで同じ顧客なのに氏名が違う」といった不具合が発生しているのが実状です。ただこれは、人の操作ミスではなく、SaaSごとに情報を別のタイミングで保持しているために必ず起きる現象です。この問題を全社で防ぐために必要なのがMDM(Master Data Management:マスターデータ管理)です。

 昨今は、企業の業務システムとしてSaaS(Software as a Service)の導入が進んでいます。一方で、複数のSaaSを導入していくと、それぞれでは正しくデータを入力し利用しているにもかかわらず、複数の“正しいデータ”が生まれてしまいます。

 例えば、営業システムと会計システムで「同じ顧客なのに氏名が違う」「勤怠管理システムと人事管理システムで所属が違う」「同じ商品なので商品コードが、あるSaaSでは『001』なのに別のSaaS Bでは『0001』になっている」などです。業務現場でよく発生するデータの“揺れ”には次のようなものがあります。

●顧客名が揺れている(全角と半角、正式名称と略称の混在など)
●部署名が古いままで承認フローが止まる
●Excelに独自の顧客リストや商品表が存在する
●勤怠SaaSと人事システムで所属が違う
●毎月の集計時の名寄せ、突合に多くの時間が奪われる

 これらは全て情報が“揃っていない”ために発生します。SaaSや基幹システムをどれだけ増やしても、情報が揃っていなければ業務は進まず、正しい意思決定もできません。

データ更新時の“人・場所・タイミング”の違いが情報の“揺れ”に

 では、こうした情報の“揺れ”は、なぜ生まれるのでしょうか。その理由は、とてもシンプルで(1)更新する人、(2)更新する場所、(3)更新するタイミングの3つの違いから自然に生まれています。これは技術の問題ではありません。

“揺れ”の理由1:システムごとに定義が違う

 顧客名や商品名、部署名などの項目の定義、すなわち意味や書き方が統一されていない

“揺れ”の理由2:更新のタイミングが違う

 営業SaaSで今日、修正した顧客名が、会計システムでは翌月まで反映されないなど“時間差”が発生する

“揺れ”の理由3:更新の持ち場、つまり誰が情報を直すかが曖昧

 本来、人事が更新すべき所属情報を現場が勤怠SaaS上だけで直してしまうといったケースです。各部署が使っているExcelや個別のSaaSに対し、現場が修正情報を入力することは決して珍しくはありません。さらに実務では、最新情報が最初に入力されるシステムが必ずしもマスター側ではないことが揺れを加速させます。

 これらの問題を全社で防ぐために必要になるのがMDM(Master Data Management:マスターデータ管理)です。MDMと聞くと専門的に聞こえますが、業務部門が覚えておくべきポイントは次の1つです。

 @@em|s|MDM = データの業務フロー、つまり「誰が、何を、いつ更新するか」を整える取り組み@@

 つまり、データの業務フローを決めていないがために「誰が正しい情報を持つべきか」が、あいまいになり情報に“揺れ”が生じるのです(図1)。

図1:MDM(Master Data Management:マスターデータ管理)はデータの業務フローを整える