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- データ分析/生成AI活用を成功に導くためのデータ連携入門
データ連携・活用に向けたPoCで“沼”にハマる理由【第8回】
データ品質に対する観点が業務部門とIT部門で異なる
上述したように、業務部門がPoCでまず気にするのは「この分析や可視化で成果が出そうか」「やりたいことが業務として実現できそうか」です。そこで特に重視されるのは次の観点です。
信憑性 :この数字は信じてよいものか
理解性 :なぜ、この結果になったのかを説明できるか
多少データが欠けていても、その更新が少し遅れていても「方向性を判断する材料になる」のであればPoCとしては十分価値があります。こうした感覚は、多くの業務部門に共通でしょう。
一方、IT部門がPoCで気にするのは「このデータ取得方法は毎回、再現できるか」「人に依存せず仕組みとして回り続けるか」です。結果、PoCにおいて重視するのは次のような観点です。
最新性 :常に最新の情報を参照できる仕組みになるか
標準適合性 :標準的なデータ形式や手段で収集できているか
業務部門からすれば「今は、そこまで要らないのでは?」と思いがちですが、本番運用を見据えると無視できない視点です。
業務部門は「できそうだ」「使えそうだ」と感じているのに、IT部門は「このやり方では続かない」と感じている。これは、どちらかが間違っているのではありません。PoCで何を確認したいのかが合意されていない状態です。PoCでは特に、このズレがUI(User Interface)と、裏側にある仕組みの違いとして現れやすくなります。
業務部門は、ダッシュボードやチャットなど目に見えるUIを重視します。「この画面で意思決定できそうか」「決裁者に説明できそうか」という視点です。一方でIT部門は「データはどこから来ているのか」「その連携は毎回同じ形で再現できるのか」などデータ連携の仕組みを気にします。これは対立ではなく、見ている観点が違うだけです(図2)。
評価軸がズレるとPoCは“沼”になる
PoCを成功させるために最も重要なのは、最初に評価の範囲を言語化しておくことです。例えば次のようにです。
「今回のPoCは決裁を取りに行くのが目的なので、UI重視でよい。ただしデータがどこから来ているか、本番にしたときに何が課題になりそうかだけは把握しておく」
「全体の金額感や工数感を知りたいのでUIだけでなく、裏の仕組みの見通しも含めてPoCで検証したい」
このように「できるか」と「続けられるか」を切り分けて合意することが、PoCを“実験”で終わらせないための最大のポイントになります。
データ活用のPoCは、単なる技術検証ではありません。「やりたいことは実現できそうか?」という同じ問いを、業務部門とIT部門が同じ意味で確認するための場でもあります。
業務部門は「何ができるか」を確認し、IT部門は「どう続けるか」を見通す。どちらも正しい。だからこそ、今回のPoCでは「何を、どこまでやるのか」「何をクリアしたらゴールなのか」を最初に合意したうえで進めることが“PoCの沼”にハマらないための第一歩になります。
「正しいデータで、正しい意思決定をしたい」という共通の願いに向けて、PoCを次につながる検証にしていきましょう。
高坂 亮多(こうさか・りょうた)
セゾンテクノロジー CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)。2007年新卒入社、2025年より現職。流通業向け業務アプリケーションの開発を皮切りに、クラウド移行やモバイルアプリケーション、コグニティブ技術を活用したアプリケーションなど先端技術領域の開発をリードしてきた。近年はデータエンジニアとして分析基盤の構築やAI活用プロジェクトを推進している。
