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  • 課題解決のためのデータ活用の始め方

データ活用を成功に導くための組織体制と人材戦略【第4回】

若尾 和広(primeNumber データイノベーション推進室 室長)
2025年12月17日

データ活用の推進組織に必要な人材と役割

 データ活用を推進する組織には、多様なスキルを持つ人材が必要です(図2)。しかし、全ての人材を社内で揃える必要はありません。特に重要な役割については社内から適切な人材を配置し、その他の役割は外部リソースも活用しながら進めるのが現実的です。以下に必要な人材像を挙げます。

図2:データ活用の推進組織に求められる人材とスキル

組織リーダー:推進と調整

 データ活用プロジェクト全体を統括し、経営層や各事業部門との調整や、予算・リソースの確保、プロジェクトの優先順位付けなどを担当します。ITやデータサイエンスに対する一定の理解力を持ちながら、経営層や各事業部門との間に立って調整し、プロジェクトをマネジメント・推進します。

 最も求められるスキルは、プロジェクトを推進する力です。加えて、データサイエンティストが作成したレポートから顧客や施策の状況を読み取れるアナリティクス力や、全社視点からデータ基盤の拡張を検討・推進するエンジニアリング力も求められます。

サービスデザイナー:ビジネスとITのブリッジ

 データ活用を成功させる上で最も重要な人材です。ビジネスの課題とITを結びつける“ブリッジ人材”です。ビジネスの課題を理解した上で、どのような技術を使えば、その課題を解決できるのかを判断するのが役割です。

 プロジェクトをマネジメントし、社内の施策実行オペレーションを構築する力と、データサイエンティストの分析手法を理解し作成されたレポートから顧客や施策の状況を読み取れるアナリティクス力の双方が求められます。

 組織リーダーやサービスデザイナーには、意欲的かつロジカルシンキングができる人材を配置しなければなりません。データ活用を推進する上では、既存のワークフローの変更も必要です。そのため、既存のやり方に慣れた現場との間にハレーションが生じる可能性も高くなります。そうした調整事に前向きに取り組める人材でなければなりません。

 データ活用を推進することは会社にとっても新しい取り組みになるため、ゼロから考えて取り組む力も重要です。

ビジネスアナリスト:現場の近くで分析

 BI(Business Intelligence)ツールなどを使ってデータを分析するのが役割です。ビジネスユーザーがダッシュボードを見てモニタリングするのに対し、ビジネスアナリストは、そこから一歩踏み込み、軸を変えて深掘り分析を実行します。

データサイエンティスト:高度な分析と予測

 機械学習やAI(人工知能)などの高度な技術を用いて、予測モデルや最適化モデルを構築します。データ活用が進み、価格最適化やレコメンデーションなどに取り組みたいというニーズが生まれた際に求められる役割であり、統計解析や機械学習などを正しく使用できる知識と経験が求められます。

データエンジニア:データ基盤の構築と運用

 データ取得のためのパイプラインの構築やデータウェアハウス(DWH)の運用などデータ基盤を支えるのが役割です。最もエンジニアリング力が求められます。全社で保有しているデータを理解しておく必要もあります。

アプリケーションエンジニア:ユーザーが利用するアプリの構築

 エンドユーザーが実際に操作するアプリケーションやインタフェースを開発します。生成AI技術を使ったチャットボットや、データを可視化するダッシュボード、業務効率化アプリケーションなど、データ基盤の上に構築する利用部門向けシステムを担当します。データエンジニアが整えたデータ基盤を活用し、使いやすい形でエンドユーザーにデータ活用の価値を届けることが求められます。

キーポジションには意欲と能力のある人材を配置する

 上述した人材のうち、サービスデザイナーや組織リーダーは特に重要な役割であり、自社内から人材を選び配置する必要があります。データ活用を契機に社内風土を含めた変革を図りたいというのであれば、外部からの採用も検討対象になります。採用時には、これまでにDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ活用のプロジェクトを推進した経験がある人材を選びます。

 ただし、自社の全ての領域に対し経験を持つ人材を見つけるのは困難でしょう。その際は、マーケティングや、バックオフィス、生産管理など、まず自社が取り組みたい領域に強い人材を採用し、そこから横展開していくアプローチが現実的です。

 ビジネスアナリストやデータエンジニア、データサイエンティストは社内外での確保が難しい人材かもしれません。その場合は、外部委託によりプロジェクトをスタートすることも可能です。外部リーダーやサービスデザイナーが要件を定義しますが、そうした外部人材をマネジメントするのは委託側の役割です。

 これまでに付き合いのない会社などに発注すると、認識のズレが生じることも多くあります。大きなプロジェクトを一括発注するのではなく、小さく始め、相性などを見極めながら進めることが重要です。こうした能力も外部リーダーやサービスデザイナーには求められます。

 データ活用を推進するための組織の構築は一朝一夕にはできません。しかし、適切な組織形態を選び、優先順位を付けて人材を配置していけば、着実に前進できるはずです。

 最も重要なのは、サービスデザイナーと組織リーダーの2つのキーポジションに、意欲と能力のある人材を配置することです。この2人のコアチームを中心に、まずはクイックウィンを積み重ね、成功事例をパターン化しながら組織を徐々に分散していくことが、データ活用の全社への浸透につながります。

若尾 和広(わかお・かずひろ)

primeNumber データイノベーション推進室 室長、プロフェッショナルサービス本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。大日本印刷のビッグデータ分析部門立ち上げに参画した後、電通系マーケティング会社(現電通デジタル)にてCRMコンサルタント、BIシステム開発に従事。事業会社を経て、ブレインパッドにてプリンシパルコンサルタントとしてデータ分析やデータ活用基盤の構築、MA導入、分析/DX組織の立ち上げ支援などに従事。現在はprimeNumberのプリンシパルソリューションアーキテクトとしてクライアントのデータ活用を支援するとともに、データイノベーション推進室 室長として生成AI技術を中心としたR&D領域を担当している。