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  • 課題解決のためのデータ活用の始め方

データ活用のための“技術”と“ビジネス”を学ぶための5冊【第9回】

若尾 和広(primeNumber データイノベーション推進室 室長)
2026年6月17日

AIの時代に問われる人間の役割とデータの限界

 生成AI(人工知能)技術がブームになっている昨今「コーディング(プログラム開発)はAIエージェントがやる時代が来る」と指摘され始めています。そのとき人間に残る役割は何でしょうか。筆者は「要件、つまり“何をやりたいか”を決めること」だと考えています。

 手を動かす作業をAI技術が担うようになるほど、この「やりたいことを定義する力」の価値が高まっていきます。データ活用であれば、データを使ってできることと、その限界を理解したうえで活用の方法を探り推進していく力です。

■「人間の仕事」とは何かを教えてくれる:『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」セブン-イレブン式脱常識の仕事術』(勝見 明、プレジデント社、https://presidentstore.jp/category/BOOKS/005007.html

 “人間の役割”を考えるうえで、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。鈴木敏文さんは、コンビニエンスストア事業にデータ活用を採り入れ、棚割りの最適化や自社ブランド(プライベートブランド)商品の開発を強力に推し進めた稀有な経営者です。惜しくも2026年5月18日に逝去されましたが、その仕事観は今なお色あせません。

 筆者がデータ分析の仕事を始めた頃、鈴木さんの仕事観に関連して教えられた考え方があります。売れ筋・死に筋を分類する分析(ABC分析やABCZ分析)では、多くの人が「売れ筋」に注目します。しかし重要なのは「売れていない商品を売り場から外したあと、その空いた売り場に次は何を置くべきかだ」という考え方です。データはあくまでツールであり、そこから次の一手を構想するのが人間の役割だという鈴木さんの姿勢を、筆者はこのように受け止めてきました。

 データは“現状”を映し出してはくれますが「次に何を試すべきか」までは教えてくれません。筆者は「データで現状を正しく捉えたうえで、その先の打ち手を構想する。そこにこそ人間の付加価値がある」という考えから、データ分析に向き合う姿勢を学びました。

■過去の正しさが足かせになる構造:『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(クレイトン・クリステンセン、翔泳社、https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798100234

 データ活用に取り組む方にこそ、あえて立ち止まって考えていただきたいテーマがあります。それは“データの限界”です。どれだけ精緻に分析しても、データが示すのは“過去に起きた事象”にすぎません。平時には、過去のデータから傾向をよみ、無駄をなくし、最適化を図ることは正しい行為です。しかし、市場やビジネス環境そのものが大きく変わる転換期には、その“正しい行い”が、かえってマイナスに働くことがあります。

 本書の主題は「破壊的イノベーション」です。優れた企業が、合理的で顧客志向の意思決定を積み重ねていたにもかかわらず、新興技術の波に乗り遅れて市場での地位を失う、といった構造を明快に描き出した経営学の古典です。「データの限界」を論じた本ではありません。

 しかし、データ活用に関わる人にとって重要な示唆があります。それは、既存顧客の声や既存市場のデータに忠実であることが、環境が大きく変わる局面ではかえって判断を誤らせることがあるという点です。「分析し、無駄をなくし、最適化する」という一見正しい行動が、なぜ大きな変化の前では裏目に出るのか。本書を読むと、過去の成功や既存市場のデータに対し極度に最適化することの危うさを、構造として考えさせられます。

 市場の変化の兆しを、データから読み取ることはもちろん可能です。しかし、過去の延長線上にない変化が起きるとき、過去のデータだけを頼りにすると判断を誤ります。データを最大限に活かしながらも、常に「これは過去の事象でしかない」という限界を意識しておく。この両立こそが、これからのデータ活用に求められる姿勢だと考えます。

事例は“詳細”ではなく“構造”を見る

 データ活用を学ぶ際に誰もが気にするのが、他社や他業界の“事例”です。ケーススタディは確かに有用です。ただし、個々の事例の詳細を追うのではなく、多くの事例に共通する“構造”に目を向けることが大切です。

 他社で上手くいったやり方が、自社でも上手くいくとは限りません。逆に、他社が失敗したやり方が、自社では成功することもあります。大切なのは「何をやったか」という表面的な情報ではなく「なぜそうなったのか」という理由を体系立てて捉えることです。

 今回取り上げた5冊は、その「なぜ」を考えるための土台になる本ばかりです。技術の基本を押さえ、人間の役割を見定め、データの限界を意識する。これら3つの視点を持ってデータと向き合えば、流行に振り回されることなく、自社にとって本当に意味のある活用にたどり着けるはずです。

若尾 和広(わかお・かずひろ)

primeNumber データイノベーション推進室 室長、プロフェッショナルサービス本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。大日本印刷のビッグデータ分析部門立ち上げに参画した後、電通系マーケティング会社(現電通デジタル)にてCRMコンサルタント、BIシステム開発に従事。事業会社を経て、ブレインパッドにてプリンシパルコンサルタントとしてデータ分析やデータ活用基盤の構築、MA導入、分析/DX組織の立ち上げ支援などに従事。現在はprimeNumberのプリンシパルソリューションアーキテクトとしてクライアントのデータ活用を支援するとともに、データイノベーション推進室 室長として生成AI技術を中心としたR&D領域を担当している。