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旗艦ビル「IntenCity」における電力消費量削減策の実際【第1回】

青柳 亮子(シュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデント)
2025年9月29日

1万の制御・測定デバイスで得るデータを元にCO2排出量を制御

 建物自体は、高い熱慣性を持つコンクリート構造によって外部から断熱されている。ガラスも、電気感知のUVカットガラスが120枚の装備されている。このガラスは電気制御によって透明から半透明にまで切り替えられる。夏は半透明にすることで太陽光の侵入を制御し、冬は透明にして冷房や暖房の必要性を減らす。

 熱と冷気は主に輻射天井から放出される。吊り天井をなくし熱閉塞を回避することで、ビル全体にわたって周囲空気の温度を均一化する仕組みだ。全ての空気は、20超の空気処理プラントが管理する。

 オフィススペースには、ダブルフローのエネルギー回収プラントが装備されている。技術室とコンピューター室、レストランには単流発電所があり、空気の質は、建物内のCO2を継続的に測定しながら制御している。

 そのためビル内には1万点の制御デバイスや測定デバイスを設置している。約6万のデータを10分ごとに取得し、温度や照度、エネルギー使用量を制御する。データは2340個のセンサーのほか、850個のコネクテッドエネルギーメーター、および1060個の制御・調整ユニット(ゾーンコントローラー)などから取得している。

図2:室内に付けられたセンサーの例

 これらのデータにより、ビル内の各部屋で働く人数に合わせて、照明や空調を自動的に制御する。省エネのためのスイッチの切り替えを従業員に委ねることなく、職場環境の快適性を自動で高めながら省エネを実現している。並行して、断熱性が高い窓を採用して空調のエネルギー消費を抑えたり、太陽の高さに合わせてブラインドを自動で調整して日光を取り込み自然光でオフィス内を明るく保ったりもしている。

BMSでビル内設備を制御し運用状況を可視化

 ビル内設備の制御には自社製BMS「EcoStruxure Building Operation(EBO)」を使っている。ビル全体の運用を1つのネットワークで監視・維持・制御し、建物全体のエネルギー消費量を可視化する。利用者の別にパーソナライズしたダッシュボードを用意し、ビルの運用状態と性能データをレポートする。異常値が検知されればアラートを通知する。

 EBOが動作するIoT基盤のEcoStruxureは3階層のアーキテクチャーを採っている(図3)。下位から(1)センサーや各種メーター、制御盤などの「Connected Products」、(2)それら現場のハードウェアとの連携を担う「Edge Control」、(3)制御や分析、可視化のためのアプリケーションやサービスである。

図3:「EcoStruxure」を構成する3つの階層

 Connected Productsが生成するデータを、Edge Control層の制御機器やソフトウェアが吸い上げ、そのデータを元にエッジ環境をリアルタイムに制御し、アプリやサービスと連携する。BMSのEBOはEdge Controlの1つである。

 IntenCityにおいて、EBOと並んで大きな役割を果たしているのがEdge Control層にあるソフトウェア「EcoStruxure Power Monitoring Expert(PME)」である。電力使用のピーク時や、どの負荷が最も大きな影響を与えるかを理解することで、エネルギーパフォーマンス改善のための行動計画策定をサポートし、運用信頼性を高める。

 総設備負荷や、総エネルギー消費量、電圧、周波数、力率、電流などの電気パラメーターをグラフ化して表示したり、リアルタイムな測定値とデバイス間の電気の流れを表現した単線結線図を表示したりができる。時間の経過に伴うエネルギー使用量と需要レベルを表示し、期間ごと差を視覚的に比較できるダッシュボードも持つ。

 IntenCityは、新築の建物であり多くの最新機能を備えられたことが、平均的なビルの10分の1という省エネを達成できた要因の1つではある。ただBMSは近年、その機能・性能が高まっている。5年ほど前のシステムを最新版に入れ替えるだけで電力消費量の10〜15%の削減効果を期待できるとされ、エネルギー価格が高騰する現代にあっては、そのROI(投資対効果)は非常に高いといえる。IntenCityはBMSによるZEBの姿を実証しているのである。

 次回は、IntenCityにおける発電側の取り組みについて紹介する。

青柳 亮子(あおやぎ・りょうこ)

シュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデント。1998年慶應義塾大学 環境情報学部卒業。2005年GE(ゼネラル・エレクトリック)入社、GEリアルエステートを経て、2011年よりGEエナジー(現:GEパワー)へ異動。新設された日本企業との合弁会社へ出向後、営業部東日本グループのマネージャーとしてスマートメーターの営業、GEパワーにてガスタービンおよびガスタービンのメンテナンス契約のセールスマネージャーとして活躍。

2018年8月、パワーシステム事業部バイスプレジデントとしてシュナイダーエレクトリックに入社。2021年5月からはサービス事業部バイスプレジデントに就任し、2024年4月よりエナジーマネジメントセグメント事業部のバイスプレジデントも兼務する形で業務領域を拡大し、戦略的なフォーカス業界に対するエネルギーマネジメント事業を統括した。

2024年10月1日より関連会社や合弁事業などを含む日本市場におけるシュナイダーエレクトリックの全ての事業を管轄する役割であるシュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデントに就任するとともに、シュナイダーエレクトリックおよびシュナイダーエレクトリックホールディングスの代表取締役に就任。