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  • 仏シュナイダーの実践例に見る脱炭素社会の作り方

旗艦ビル「IntenCity」における電力消費量削減策の実際【第1回】

青柳 亮子(シュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデント)
2025年9月29日

地球の温暖化防止策として温室効果ガス/CO2の排出量削減が全世界で求められている。その中で、CO2排出量の約30〜40%は、オフィスビルや商業ビルなどの建物に起因するとされ、ビルのスマート化を図ることがエネルギー消費に非常に大きなインパクトを与える。仏シュナイダーエレクトリックは、本社ビルの建て替えに当たり、自社の製品/サービスを使った脱炭素化を図っている。今回は、同ビルでの取り組みの中から、電力消費量を削減するための施策を紹介する。

 電力をはじめ世界のエネルギー需要は今後10年間で1.5倍以上に増えるといわれている。電力を使う人口が増えることに加え、「ChatGPT」などの生成AI(人工知能)技術の利用拡大などにより、半導体需要に応えるための生産能力の拡大やAIワークロードの増加に伴うデータセンターの電力消費量の急増などが想定されるからだ。

 エネルギー需要が拡大する一方で、気候変動問題の解決に向けては、温室効果ガスの排出量は半減する必要がある。需要増と温室効果ガスの排出量削減に応えるには、単純計算でエネルギーを今より3倍、効率的に使わなければならない時代がやってくる。

 エネルギーの効率的利用で注目されるのが、オフィスビルや商業ビルなどの建物だ。世界のCO2排出量全体の約30〜40%がビルに起因するとされるうえに、ビルで使われているエネルギーの30%以上が無駄になっているという。

 そうしたビルのエネルギー消費を、デジタル技術の使ったスマート化により効率を高められれば、非常に大きなインパクトを生み出せる。日本でも年間の一次エネルギー消費量の収支を“ゼロ”にすることを目標にする建築物として「ZEB(Net Zero Energy Building)」が注目されている。

旗艦ビル「IntenCity」の電力使用量を一般ビルの10分の1に

 仏シュナイダーエレクトリックは、CO2削減量の大幅な削減に向けて、世界各地でビルのスマート化を実現するための製品/サービスを提供している。従来は、配電盤に組み込まれているような送電用部品を多く手掛けていた。だが最近はエネルギーマネジメントと産業オートメーションにおけるデジタル化を支援する製品/サービスやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤「EcoStruxure」など提供し、持続可能性の実現を支援している。

 建物を対象にしたエネルギーマネジメントの仕組みは、オフィスやホテル、データセンターや工場など、人間が社会生活を営む、あらゆる設備で必要となる。そのショーケースになるのが、仏グルノーブルに2020年に完成した当社の旗艦ビル「IntenCity(インテンシティー)」である(図1)。

図1:仏グルノーブルにある仏シュナイダーエレクトリックの旗艦ビル「IntenCity」の外観

 IntenCityでは電力使用量の「ネットゼロ」を実現している。種々の機器から得られるセンサーデータを使ってエネルギー効率を高めているほか、太陽光パネルや風力タービンを使った再生可能エネルギーの発電設備も備えるなど、現在使用できる先端技術を総動員している。

 グルノーブルは、当社のパワーシステム事業部やパワープロダクト事業部の開発拠点で、IntenCityでは約5000人の従業員が働いている。かつては13のビルに分かれていたものを建て替えるにあたり4つのビルに統合した。4つのビルのそれぞれは機能や電気設備などが独立している。経営環境の変化に対するレジリエンス(強靱さ)の観点から、個別に売却できるようにするためだ。

 IntenCityの年間電力使用量は、BMS(Building Management System:ビルマネジメントシステム)を使って照明や空調を制御することなどで、1平方メートル当たり37キロワット時(kWh)に抑えている。この数字はヨーロッパにある同等の建物と比べると10分の1だ。

 37キロワット時の内訳は、電源プラグや照明、ブラインド、エレベーターなど一般オフィスとしての電力使用が31%、IT設備が19%、レストランが17%、暖房・冷房が15%、ベンチレーション(換気)が8%などとなっている。