- Column
- 仏シュナイダーの実践例に見る脱炭素社会の作り方
旗艦ビル「IntenCity」における再生可能エネルギー利用の実際【第2回】
CO2排出量などを可視化しデータ分析で改善点を発見
加えてIntenCityでは、冷暖房の効率を高めるためにヒートポンプを導入している。IntenCityは、イゼール川とドラック川の合流点に位置している。その特性を活かし、地下水の地熱エネルギーをヒートポンプ経由で建物全体の暖房と冷房に電力を供給している。一般にヒートポンプは暖房に利用するケースが多いが、IntenCityのヒートポンプは、熱と冷気を同時に生成する発電機である。
コンピューター室には専用のヒートポンプを置いている。氷水製造用に300キロワット、温水製造用に350キロワットの容量を持つ。全てのオフィススペースには2台のコンフォートヒートポンプを設置し。それぞれが冷水700キロワット、温水800キロワットの容量を持っている。寒さが厳しい時には、ヒートポンプの動作をスムーズにするために、12立方メートルのタンク4つの温水を貯蔵することもできる。
省エネと再生可能エネルギーによりネットゼロを実現しているIntenCityでは、CO2排出量や水の消費量などの環境負荷を「EcoStruxure Resource Advisor」(以下、Resource Advisor)を使って可視化している。
Resource Advisorは、エネルギーとサスティナビリティ(持続可能性)のフットプリント(環境への影響を数値化し評価するための指標)を管理する。サステナビリティの目標に対して重要な情報を収集し、ダッシュボードで分析する。データを1カ所に集約して管理し、AIエージェントの「Microsoft Co-pilot」(米Microsoft製)を使って分析することで、目標達成に向けた改善点を見つけ出し行動に活かせる。
シュナイダーが対外的に公開しているサステナビリティ関連の情報開示や外部機関への報告も、Resource Advisorが集めた情報が元になっている。
再エネの有効活用にはソフトウェアによる制御や可視化が重要に
日本政府は2025年2月、第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。「2050年のカーボンニュートラル実現」という目標に対し、2040年度までに温室効果ガスの73%削減を目指すとともに、太陽光や風力などの再生可能エネルギー導入をさらに推進し、技術開発と社会実装を強化することを名言している。
東京都も2025年4月に「環境確保条例」を施行した。2030年までに都内の温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」の実現に向け、新築住宅などへの太陽光発電設備の設置を義務づける。再生可能エネルギーへのシフトは他の自治体でも検討され、拡大している。
太陽光発電も風力発電も、全国に大規模な施設が建設される一方、生態系への影響や景観の破壊といった課題には厳しい目が向けられている。大規模な発電施設だけではなく、新たな産業育成と雇用創出につながるエネルギーの地産地消費も注目されている。
最近は、曲がる太陽電池として「ペロブスカイト型」が開発され、ビル壁面での利用に向けた実証実験も始まっている。大阪・関西万博でも、国内最大級のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を搭載した施設が登場したり、スタッフのユニフォームに取り付けられたりとGX(グリーントランスフォーメーション)のための新手法が、さまざまに試されている。
CO2をはじめとした温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出削減に向けて今後は、規制が強化されていくことは間違いない。大手企業は、自社消費である「スコープ1」だけでなく、サプライチェーン全体で削減する「スコープ3」への取り組みも求められている。GHG削減圧力は企業規模に関わらず強まっていく傾向にある。
再生可能エネルギーの活用はこれまで、製造業などを中心に導入が進んできた。今後は、オフィスビルや商業施設などでの活用も増えてくるだろう。そこでは今回紹介したIntercityでの取り組みのように、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを使った制御や可視化が重要になる。
青柳 亮子(あおやぎ・りょうこ)
シュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデント。1998年慶應義塾大学 環境情報学部卒業。2005年GE(ゼネラル・エレクトリック)入社、GEリアルエステートを経て、2011年よりGEエナジー(現:GEパワー)へ異動。新設された日本企業との合弁会社へ出向後、営業部東日本グループのマネージャーとしてスマートメーターの営業、GEパワーにてガスタービンおよびガスタービンのメンテナンス契約のセールスマネージャーとして活躍。
2018年8月、パワーシステム事業部バイスプレジデントとしてシュナイダーエレクトリックに入社。2021年5月からはサービス事業部バイスプレジデントに就任し、2024年4月よりエナジーマネジメントセグメント事業部のバイスプレジデントも兼務する形で業務領域を拡大し、戦略的なフォーカス業界に対するエネルギーマネジメント事業を統括した。
2024年10月1日より関連会社や合弁事業などを含む日本市場におけるシュナイダーエレクトリックの全ての事業を管轄する役割であるシュナイダーエレクトリック ジャパン カントリープレジデントに就任するとともに、シュナイダーエレクトリックおよびシュナイダーエレクトリックホールディングスの代表取締役に就任。

