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- 「知る」から「使う」へ、生成AI活用の最前線
日清製粉ウェルナ、冷凍食品400品目の需給を計画するAIシステムを開発
「生成AI Day 2025」より、ロジスティクス部業務課 西村 英雄 氏と礒野 隼也 氏
熟練者の暗黙知を言語化するために社内インタビューを徹底
実際にシステム開発を担当した日清製粉ウェルナのロジスティクス部業務課 需給管理グループ グループリーダーの礒野 隼也 氏は、システム化における3つの重要ポイントを挙げる(写真2)。(1)担当者の暗黙知をいかに言語化できるか、(2)システムに任せる範囲をいかに明確化できるか、(3)実務担当者・システム化推進者・開発者の3者がいかにベクトルを合わせられるかである。
暗黙知の言語化について礒野氏は「担当者は熟練すればするほど半ば無意識にさまざまな選択をしている。どういった場面で、どういった選択し、なぜその答えになるのかを言語化することが重要だ」と指摘する。
そのため社内では「責任者が担当者への聞き取りを1回2~3時間、約10回実施し、徹底的に深掘りした」(礒野氏)。それにより「この作業や判断に、どんなデータを、なぜ使うのか、なぜその判断をしたのか、基準は何かなどを、第三者視点から細かく整理していった」(同)という。
グリッドとの開発は、フェーズ1では3カ月かけて実現可否を確認。フェーズ2で17カ月の実開発に取り組んだ。その間も週1回、1~2時間の対面打ち合わせを継続した。「開発が進むにつれて新たな業務ルールやノウハウが後出しで判明することも多く、プロジェクト中盤で3時間の要件洗い出しセッションも実施した」(礒野氏)とする。
「対面で頻繁にコミュニケーションを取り続けることで、グリッドとは互いに『絶対に使えるシステムを作り上げたい』という思いを共有でき、違和感があればすぐに気付いて調整できるようになっていた」と礒野氏は振り返る。
AIシステムに100%を求めず、人は例外対応と補正に注力
完成したシステムは2024年10月に運用を開始した。AI技術により3つの機能を利用している。(1)アイテム別・倉庫別の未来の在庫状況のシミュレーション、(2)在庫不足順での倉庫別補充必要数算出、(3)業務ルールに基づく稼働日数に余力がある工場での製造提案だ。
これらにより、約400品目に対し全国7つの倉庫ごとに日々の在庫推移をシミュレーションし、在庫が少ない順に補充必要数を算出、稼働日数に余力があり需要地に最も近い工場での製造を導き出す。
処理結果は、従来の同じExcel形式で出力することで「業務担当者による修正・微調整が容易で、工場や運送業者への依頼、社内システムへの入力といった後続作業もそのまま継続できている」(礒野氏)
重要な設計思想として礒野氏は「AIシステムに100%の回答を求めず、計画の一部は人が修正・補足することを前提とした点」を挙げる。
例えば、新製品や流動的な販売、リニューアルの可能性、製造工場の変更、スポットでの大口出荷など「不確定・イレギュラーな要素の全て対応しようとすれば、システムは複雑になり過ぎる」(礒野氏)からだ。「ルールベースの定型作業はAI技術に任せ、人はイレギュラー対応と補正に注力する役割分担を明確にした」(同)
導入効果は「劇的だった」と礒野氏は評する。需給計画の策定時間が従来の3日が1日に、日々の在庫移動計画は2時間が45分に、それぞれ短縮できた(図3)。「計画作業のための時間の確保が困難で、主要品目に限定して精度を落とさざるを得なかったものの、全品目を同じ水準で管理できるようになった」(同)ともいう。
浮いた時間により新領域へのチャレンジも可能になった。礒野氏は「今後は常温と低温の製品を合わせた需給の安定化と持続可能な物流体制の構築を目指す」と意気込む。
そのうえで礒野氏は「システムを使う側に求められる課題は、専門人材の育成と、改善業務に充てる時間と人手の確保にある。DXはそれ自体が目的ではなく、やりたいことをやるための手段だ。DXを通じて業務の生産性向上と業務水準の高度化、安定化を図っていきたい」と力を込める。

