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日清製粉ウェルナ、冷凍食品400品目の需給を計画するAIシステムを開発

「生成AI Day 2025」より、ロジスティクス部業務課 西村 英雄 氏と礒野 隼也 氏

森 英信(アンジー)
2025年12月2日

パスタや冷凍食品などを製造する日清製粉ウェルナは、400品目ある冷凍食品の需給計画のためのAI(人工知能)システムを開発し、工場と倉庫の生産・出荷に利用している。同社 ロジスティクス部 業務課の西村 英雄 氏と礒野 隼也 氏が「生成AI Day 2025(主催:インプレス、2025年9月18日)」に登壇し、AIシステム開発の経緯や工夫、業務改革効果を紹介した。

 「今後、当社のような荷主事業者は、物流事業者から選ばれる立場になる。選ばれない荷主にならないよう、物流改善に積極的に取り組まなければならない」--。日清製粉ウェルナ ロジスティクス部業務課 ロジスティクス部 次長 兼 業務課長の西村 英雄 氏は、こう指摘する(写真1)。

写真1:日清製粉ウェルナ ロジスティクス部業務課 ロジスティクス部 次長 兼 業務課長の西村 英雄 氏

 日清製粉ウェルナは、日清製粉グループの食品事業を担う中核企業である。小麦粉やミックス粉、パスタ、冷凍パスタなど全国に10ある工場で製造し、7カ所の倉庫から客先に届けている。

 グループ内には「DX認定」を受けた企業もあるが、日清製粉ウェルナとしては2025年6月にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進部を立ち上げたばかりである。西村氏は「デジタル化の遅れを認識しつつも、経営戦略と現場課題の双方を見据えたDX戦略を推進している」と力を込める。

商品改良によるパレット積載量の増加や業界連携により物流危機に対応

 同社が直面している最大の課題は「物流の2024年問題」である。トラックドライバーの労働環境は「他産業と比べて労働時間が2割長いのに対し所得は1割少ないという厳しい状況にある」とされる。人材不足も加速する中2024年からは、時間外労働に上限規制がかかり、需要に対する輸送量の不足が2024年に14%、2030年には34%になる試算もある。

 物流改善に向け日清製粉ウェルナとしては、冷凍食品のパレット積みの推進に注力した。手作業では2~3時間がかかる積み込み・荷下ろし作業の時間短縮を図るために「商品の内容は変えずにサイズを縮小し、パレット積載数を1.5倍に高めた。必要なトラックの台数を変えることなく作業時間を大幅に短縮できている」と西村氏は評価する(図1)。

図1:商品サイズを縮小しパレットへの積載数を増やした

 他社との連携による取り組みには、物流効率化に共同で取り組む「F-LINEプロジェクト」がある。日清製粉ウェルナのほか、味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、ハウス食品グループ本社、ミツカンの計6社が参加する。

 F-LINEプロジェクトが発足した背景には、2013年末から2014年にかけて発生したトラックの手配困難という危機的な状況があった。西村氏は「加工食品物流の課題は共同で取り組まないと解決しないと考え、理念を共有する6社で共通基盤を構築した」と発足時を振り返る。

 共同物流の対象は「物流量が少なく配送範囲が広域なエリア」(西村氏)である。日清製粉ウェルナとしては現在「北海道、東北、中国・四国、九州での共同配送を展開し、ドライバー不足への対応を進めている」(同)という。

業務担当者の熱意を確かめたうえでシステム開発に着手

 日清製粉ウェルナが扱う製品の中で冷凍食品の需給管理業務は「特に複雑だ」と西村氏は指摘する。「同じ商品を複数の工場で同時に生産し、工場の稼働率と需要地を踏まえて最適な生産配分を決定する必要がある」(同)からだ。これまでは「1人の主担当が全体を管理していた。だがそれも、扱う商品や販売エリアの規模拡大に伴い限界が近づいていた」(同)という。

 そこで同業務を自動化するシステムの開発に着手する。開発パートナーとしてAIエンジンを開発するベンチャー企業のグリッドを選んだ。西村氏は「同社が手掛けた事例からAI(人工知能)アルゴリズムを使った計画最適化が当社のニーズに合致すると感じたためだ」と選定理由を話す。

 グリッドとの詳細検討の過程で、AI技術には(1)画像認識、(2)将来データ予測、(3)人間の言葉を扱う業務自動実行、(4)計画立案の自動化・最適化の4分類があることを知る(図2)。

図2:AI技術ができることを分類して自社の業務特性に最適な「計画立案の自動化・最適化」を選び出した

 その時の気付きを西村氏は「それまで、AI技術と聞けば需要予測のイメージが強く、さまざまなパラメーターの設定が必要なため当社での活用は難しいと思っていた。しかし計画立案の自動化や最適化というAI技術があることを知り、一定のルールと考え方の下計画を組んでいる当社の業務に適用できると判断した」と回想する。

 決定打になったのは「システム開発の自由度」(西村氏)だ。「システム開発にはパッケージに業務を合わせるという印象が強かった。だが必要なデータを入力すればExcel形式で出力できる点に魅力に感じた」(西村氏)という。

 ただ開発開始前に重視したのは「業務担当者の熱意と本気度の見極めにあった」と西村氏は明かす。「システムを適切に動かすには、制約条件や考え方、優先順位を言語と数値で表す作業が必要で、多くの時間を要する。熟練担当者はルールが頭に染み込んでおり言語化を敬遠する傾向がある」(同)。そのため「業務担当者へのヒアリングを重ね『ぜひやりたい』という熱意を確認できたことから開発に踏み切った」(同)