- Column
- 転換期を迎えた医療DX、現場実装への突破口
人を中心としたDXの実践により病院経営の持続可能性を高める
「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025」より、石川記念会 HITO病院 理事長 石川 賀代 氏
コミュニケーション環境が病棟体制の変更を可能に
デジタルツールの活用と並行して、院内の組織変革の代表例に病棟体制の変更がある。病棟を3つのセルに区分し、看護師と介護職、セラピストを現場に固定配置する仕組みを構築した。「各所にスマホで連絡できるため、例えば看護師は患者のいるベッドサイドでの仕事に専念でき、ほぼナースステーションに戻ることがなくなった。これにより、高齢者の転倒・転落といった事故を予防できるようになった」と石川氏は説明する。
セル方式による成果として石川氏は「看護師の1日の歩行時間を60分削減、交代の申し送りをチャットで行うことで1日に100分の時間を創出、看護師がベッドサイドで患者ケアに専念する時間は100分増加し、時間外労働は6000時間削減した」と説明する。
さらにリハビリテーション部では、業務用iPhoneの導入に伴い朝礼・終礼を廃止し、申し送りをチャットに変更したことで「セラピストが1日当たりにリハビリに割ける単位数が1単位以上増加している」(石川氏)という。
生成AI技術の活用も積極的に推進している。全スタッフに対話型検索による学習支援機能を用意する。石川氏は「分からない言葉の確認や手技の質問など、対話型検索が多様な職種で使われている。週1回以上生成AIアプリを使用するヘビーユーザーは23%に達しており、この数値は現在も徐々に高まってきている」と話す。
電子カルテへのAI技術活用も進む。診療情報提供書、いわゆる指示書の作成では診療科ごとにペルソナとプロンプトを設定することで「ほぼ手直しなしで自動作成できるようになっている」(石川氏)。最近は「看護サマリーや電子カルテ上の要約にも生成AI技術の活用が始まり、音声入力により記録ができる状況になっている」(同)
知能集約型組織へ転換し組織に加わる意味を明確にする
今後の方向性について石川氏は「これまでの多くのスタッフを雇用する規模拡大型から、人口減少に直面する中では、知能集約型に変えていく必要がある」と提言する。そのうえで「病院におけるDXは、人が本来やるべきことができる環境を作ることにある。そのうえで人的資本経営により長期的な人材投資を恐れず成長を目指すことが重要なポイントになる」(石川氏)とする。
石川氏は「現在の病院は経営的にも厳しい状況に置かれている。だが、働きがい・やりがいを高めていかなければ、将来的に病院で働くスタッフを確保できなくなる可能性が大きい。DX推進による働き方改革と、人的資本経営による個人の強みの最大化の両輪でワークエンゲージメントを高め、組織にいる意味を明確化した組織運営を目指していく」と力を込める。
