- Column
- 転換期を迎えた医療DX、現場実装への突破口
人を中心としたDXの実践により病院経営の持続可能性を高める
「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025」より、石川記念会 HITO病院 理事長 石川 賀代 氏
愛媛県四国中央市にあるHITO病院が「ひとを真ん中に置いたDX」を掲げ、人材不足な中で持続可能な地域医医療の体制づくりに取り組んでいる。理事長の石川 賀代 氏が「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025(主催:同実行委員会、2025年8月30日)」に登壇し、現場発のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進による生産性の向上と働きやすい環境づくりを目指す取り組みについて説明した。
「日本が人口減少局面を迎えた中、これからの医療機関は、より少ない担い手で維持できる体制づくりが非常に重要になってくる」--。石川記念会 HITO病院の理事長である石川 賀代 氏は、こう指摘する(写真1)。
スピード感のあるデータドリブン経営を目指す
HITO病院が位置する四国中央市の人口は8万人弱。高齢化率は34%と高齢化が進む。そこで2024年1月に「戦略的なダウンサイジング」(石川氏)を実施した。現在は、急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟の機能を持つ急性期ケアミックス型の228床で運営している。病床稼働率は96%と高く、平均在院日数は10日前後を維持し、年間に救急搬送件数2000件超を3年連続で受け入れている。
労働可能な人口の減少といった社会構造が大きく変化する中、石川氏は「これまでの前提を見直す必要がある。スマートフォンや生成AI(人工知能)といったデジタル技術を駆使し、スピード感を持ったデータドリブン経営が重要だ」と強調する。
HITO病院ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するに当たり「全ては現場のために、何よりも不安を抱く患者のために」という方針を掲げている。そのうえで「ファーストステップは専門職が本来の業務に集中できる環境を作ること。次に看護師が専門性の高いケアができる環境を築く。そして、これからの病院の未来を担う働き手である若い世代に選ばれる職場環境を作る」(石川氏)という順序で取り組みを進めてきた。
このDXに人的資本経営の考え方を加味し働き方改革を推進している。「まずDXにより、自分たちが本来業務に専念できる“ナチュラル”な働き方を構築する。そのうえでリスキリングなどによりスタッフ個々の強みを伸ばし、スキルを身に付けていける“オリジナル”な働き方に取り組んでいく」と石川氏は説明する(図1)。
1人1台のスマホ配付でコミュニケーション環境を変革
HITO病院では2017年からIT活用に本格的に取り組んできた。現在では全スタッフに1人1台の業務用iPhoneを配布し「Microsoft Teams」を基盤にしたコラボレーションネットワークを構築している。
石川氏は「これまでの対面中心のコミュニケーションに加え、チャットの活用などにより誰とでも対話や情報共有ができる“バーチャル”なサイバー空間ネットワークが院内に共存しており、それが、さまざまなプロジェクトや課題解決の重要な基盤になっている」と説明する。
「とりわけ重要な役割を果たしているのはサイバー空間ネットワークだ」と石川氏は話す。業務用iPhoneには、電子カルテの閲覧・記録、チームチャット、生成AIアプリケーション、セキュアなネット検索、Web会議などの機能を統合し「時間と場所に縛られない情報共有と協働を実現している」(同)からだ(図2)。
必要な関係者と容易につながれることで「個人では克服困難な課題でもすぐに解決できるケースが増えてきた。チームチャットにより、医療現場のコミュニケーション構造が劇的に変化した」(石川氏)という。
「従来、医師は朝の回診が済むと、そのまま外来や手術に向かうため病棟に上がってこられず、スタッフは『こんなことで先生に電話するほどではない』と上申をためらっていた。それが今では医師に気を遣うことなくにスキマ時間にチャットで相談でき、チーム制により手の空いた医師が迅速に返信する体制が確立できている。早期の指示により多職種のタスクのシフトやシェアも進み、時間外労働の大幅削減が実現できている」(石川氏)
チームチャットでは「病棟や部署、プロジェクトなどの単位で複数のチャットルームが立ち上がり、日々活発なコミュニケーションが行われている」(石川氏)という。例えば、臨床の現場では写真や動画を共有することで、より正確な情報をスタッフ間でやり取りできるようになった。


