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  • 転換期を迎えた医療DX、現場実装への突破口

アストラゼネカ、産官学連携で医療関連データを活用し持続可能な健康社会に

「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025」より、メディカル本部 オンコロジー領域統括部長 北川 洋 氏

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2026年1月13日

全国がん登録データや京都市保有のRWDから肺がん症例を研究

 RWDの活用事例として北川氏は肺がん領域での2つの研究を紹介する。1つは、全国がん登録情報を活用した「J-Pathway研究」である。2016年から2020年までの5年間に登録された肺がん症例、約56万人を対象に、発見経緯ごとの予後を分析した。

 J-Pathway研究では、RWDを肺がんの発見経緯の別に「定期検診などのスクリーニング検査で発見された人」「他疾患の受診中に偶然発見された人」「症状を訴えて受診した人」の3つに分類し分析した。結果、患者の3年生存率は、スクリーニング検査による発見では75%、偶然発見では56%、自覚症状による受診では30%といった差が見られた(図2)。

図2:「J-Pathway研究」の分析結果の例

 「検診を受ければ予後が良いのは当たり前と思われるかもしれないが、実際に数字として示し、どの程度なのかを明らかにすること自体に大きな意義がある」と北川氏は説明する。エビデンスがあれば「スクリーニングの割合を増やすことで、公衆衛生学的にどれくらいのメリットが得られるかをデータを元に議論できるようになる」(同)からだ。今後は都道府県別の分析も進める予定である。

 もう1つは、データの市民還元をゴールに据えた取り組みだ。京都市・京都大学・アストラゼネカの3者が協働し、京都市が持つ住民基本台帳やレセプトデータ、がん登録データを統合・匿名化したうえで肺がんの実態を分析している(図3)。

図3:京都市・京都大学・アストラゼネカによる産官学の共同研究

 同研究の特徴は「単なる学術研究に留まらない点にある」(北川氏)。具体的には、研究結果の第1報で、2013年から2018年までの6年間、4845人の肺がん患者の治療実態や医療費トレンドを明示。第2報では早期診断の重要性を訴える論文を発表した。そしてこれらの知見を2025年11月下旬に開く啓発イベントで京都市民に還元する。「データから得られた研究結果を還元し、京都市の施策にも活かすことだ」と北川氏は強調する。

三方よしの体制で持続可能な医療エコシステムを構築

 政府は今「医療DX令和ビジョン2030」を推進しており、マイナポータルを軸に医療データを連結し、全国医療情報プラットフォームを構築する方針を示している。

 そこでの製薬企業の役割について北川氏は「こうしたプラットフォームを活用してデータを分析し、その成果を自治体に還元することで、市民・国民の健康に貢献する。研究機関と当社が協働し医療実態を明らかにし、そのエビデンスを行政が健康寿命延伸戦略に生かすという循環を生み出すことだ」と述べる。

 「持続可能な健康社会を実現するには、産官学のそれぞれにメリットがある『三方よし』の体制が不可欠だ。継続的に見直しながらトランスフォームケアの活動を続けていきたい」と北川氏は意欲を見せる。