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  • 転換期を迎えた医療DX、現場実装への突破口

医療データ活用では人材不足・標準化の遅れ・国際競争力の低下の3大課題の解消が不可欠

「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025」より、IDIAL代表理事 岡田 美保子 氏

トップスタジオ
2026年3月10日

高まる医療関連データの標準化とマスターデータ整備の重要性

 医療機関を超えたデータ活用の実現に向けては「データの量だけではなく質も重要になる。そのため必要になるのがデータ標準化だ」と岡田氏は強調する。中でも「医療情報を交換するための国際規格である『FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)』は完璧性と実用性の、はざまから生まれた標準として注目されている」(同)という。

 FHIRは、患者や医療者、診断や処方などの情報を「リソース」と「プロファイル」で表して、医療情報を扱うアプリケーションを実装するための仕組みだ(図2)。岡田氏は「HL7元会長のエド・ハモンド(Ed Hammond)先生の講演に倣うと、リソースは食材の格納庫、プロファイルはレシピ、アプリケーションは調理に例えられる」と説明する。

図2:医療情報交換の国際規格「FHIR」のリソースとプロファイルの仕組み

 FHIRを利用する際に特に重要なのは「医療機関と外部とのデータのやり取りに、どの標準用語・標準コードを使うかだ」と岡田氏は話す。昨今、FHIRの記述は生成AI(人工知能)技術を使って自動化できるようになってきている。だが「施設側でないと実際の診療内容が表現できないため、用語コード標準は医療機関での採用が不可欠になる」(同)とする。

 加えて、各病院の院内マスターデータの整備も重要だ。「今後、医療機関に負担をかけない自動化が進むとして、そのためにもマスター情報がキーになる。院内マスターをデータ辞書として適切に管理する運営の枠組み作りが必要だ」と岡田氏は訴える。

 その背景には「医療データの根本的な特性として、その生成・保存は院内でしかできない」(岡田氏)ことがある。「データが生まれる現場である医療機関に、データを適切に記録・管理できる体制が整備されていることが、医療データ活用の大前提だ」(同)と強調する(図3)。

図3:データが生まれる現場である医療機関に、データを適切に記録・管理できる体制が求められる

国際的な標準化活動現場での日本の競争力が低下している

 医療データの活用を進めるには、国際的な標準化活動への参画も重要になる。しかし、医療情報の国際標準化を担う「ISO/TC215」への日本からの参加状況について岡田氏は「大きな課題がある。参加者がすごく限られている上に、高齢化が進んでいる」と危機感を隠さない。「韓国や中国、インドなどのアジア圏からの参加者は比較的若く、人数も規格の提案も多い」(同)という(図4)。

図4:国際標準化への各国の参画状況。日本の競争力低下が懸念される

 国際標準化の議論に参加しなければ、他国が決めたルールに従うだけになってしまう。岡田氏は「こうした状況を打破するには産学の意識改革が必要だ。若い人材の国際標準化会議への参加を業績として評価し、企業も、そうした活動に積極的に参画する必要がある。危機感の共有なしに、この状況は変わらない」と訴える。

 医療関連情報や各種標準の普及に向けてIDIALでは、生成AI技術の利用を進めている。その1つが、日本と米国、ヨーロッパの医薬品添付文書の比較分析だ。フォーマットや項目が全く異なり、さらには同じ表現でも意味が異なり得る各国の文書を生成AIで比較し、意味にまで踏み込んだ用語の定義や違い、共通内容などを提示する。

 臨床検査結果を交換するための標準「JLAC11」への生成AI適用では、すでに多くの成果を得ている。課題の1つである「JLAC11と各病院独自の検査項目との対応付けが進んでいないこと」(岡田氏)については、病院の担当者が対話形式で質問し対応するJLAC11コードを把握できるようにする。

 「生成AIによる推論過程を明示することで、医療機関側が最終的な判断を下せる仕組みである」と岡田氏は説明する。