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なぜ日本の官公庁DXは進まないのか【第1回】

𡌶 俊介(ジーグラビティー 取締役COO)
2026年6月29日

いまや全ての組織で避けて通れないDX(デジタルトランスフォーメーション)。しかしながら「DXの取り組みが、なかなか上手くいかない」というのは鉄板ネタの1つでしょう。「DX」という言葉が浸透し始めてから10年が経過しようとしているのに、なぜいまだにDXが上手く進まないのか。筆者が携わっている官公庁での経験をもとに、できるだけ現実的な目線でまとめたいと思います。それは広く一般的な企業・組織にも共通する点が少なくないでしょう。今回は「なぜ上手く進まないのか」を考えます。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるのは、一般の事業会社や組織だけではありません。官公庁においてもDXへの取り組みが進んでいます。例えば、私たちの目に触れる取り組みに「マイナポータル」や「e-Tax」などです。ただ官公庁は、使い勝手よりも正確性を優先するために、UX(User Experience:顧客体験)が使いにくく、改善も遅いという印象があるかもしれません。

 官公庁の業務においてDXが必要である理由の1つに、税収が令和8年度(2026年度)予算で過去最高の83.7兆円に達するのに対し、国家公務員の志願者が事務系・技術系ともに減少傾向にあることがあります(図1)。官公庁の業務現場は「仕事は増えているが人は減っている」という状況なのです。

図1:予算が伸びる一方で国家公務員の志願者は減少傾向にある

 加えて、行政サービスの多様化や国際情勢の複雑化により、官公庁の業務負担はこれまでになく大きなものになっています。民間企業よりも官公庁におけるDXの必要性は高まっているのです。

官公庁の制度的特徴がDX推進を困難に

 動機が十分にあるだけに、官公庁DXをどんどん進めれば良いはずですが、現実的には、なかなか上手くいっていません。それには、いくつかの理由がありますが、官公庁特有の理由として以下の3つが大きく影響していると考えられます。

理由1:単年度予算

 基本的に国家予算は年度ごとに決定・承認され、複数年度にまたがる計画に基づく取り組みが難しいという背景があります。ただ「国庫債務負担行為」という制度があり、複数年度にまたがる予算取得や取り組みができないわけではありません。

 予算で特に問題になるのが年度末の予算消化です。「年度末になると道路工事が増える」などと揶揄(やゆ)されていたように、予算を翌年度に繰り越せいため余剰予算を使い切るために年度末に調達をかけることがあります。この調達がDXの全体計画の元に実施されればよいのですが“残予算”ゆえに単発的になりがちで、結果としてポイントソリューション的な仕組みが入り込み、DXの推進をかえって阻害することがあるのです。

理由2:入札制度

 政府の調達は基本的に入札制度を通じて行われます。税金を使用する公的機関に求められる公平性・透明性を確保するのが目的で、国民から見ても、その重要性は明らかです。しかしながら、調達の単位によっては、整合性が必要なDXを阻害する可能性があります。

 例えば、一連のシステム導入の調達があった際に、フェーズごとや領域ごとに調達を分けたとしましょう。その場合、民間企業であれば、設計や開発などをまとめてベンダーに委託することが多いでしょう。フェーズごと、領域ごとに委託先を変えると、全体の統制や接合部分の調整などにリソースやコストを要するとともに、全体最適の観点でリスクが生じるからです。

 しかし官公庁では、入札制度を介することで、その前提が保証されなくなってしまいます。例えば、予算の都合上、サブシステムごとに調達を分けざるを得ない場合「サブシステムAはX社、サブシステムBはY社、サブシステムCはZ社が受注する」ということが起こりえます。そうした経験は筆者にもありますが、個別最適にならないようベンダー間の調整や認識合わせにリソースを要しました。

理由3:人事異動

 官公庁では、施策の責任を負う役職者は特に定期的な人事異動の対象になる傾向があります。数年を要するDXの道のりの間に責任者が変わってしまうことのほうが多いのです。新しい責任者は必ずしも前任者の方向性を踏襲するわけではなく、修正や方向転換、場合によっては中止することすらあります。そのため一貫性のある継続的な取り組みができず、結果的にDXが進まないということも多く見受けられます。