- Column
- 日系SDVが世界で勝つための協調と独自性
共通APIによって“開かれた”SDVで、日本の自動車産業は逆転攻勢に出る
「SDVサミット2026」より、Open SDV Initiative/名古屋大学 教授の高田 広章 氏
共通APIを確立してオープンSDVを実現する
オープンSDVの実現には、ビークルAPIの標準化が欠かせない。サードパーティーのアプリが特定の車種やOEMでしか動作しないのであれば、開発者にとっての市場は広がらない。そこで「共通のAPIを使えるようになれば、一度開発したアプリを多くのクルマに展開しやすくなる」と高田氏は強調する。
共通APIの確立は、OEM側にも利点がある。車種ごとにソフトウェアを作り込んでいては、バージョンアップのたびに開発コストが膨らむため「車両に依存しない形でアプリを開発できること自体が、ソフトウェア開発の効率を高める」(高田氏)からだ。自動運転システムと車両をつなぐインターフェースを標準化できれば「特定企業の技術にロックインされにくくもなる(同)
ビークルAPIをめぐっては、既に各国・地域で標準化の動きがある。欧州では、技術アライアンス「COVESA(Connected Vehicle Systems Alliance、旧GENIVIアライアンス)」が、車両データにアクセスするための「VSS(Vehicle Signal Specification)/VISS(Vehicle Information Service Specification)」を策定。中国では、中国自動車工業協会のSDV委員会「CAAM-SDV」が独自仕様を公開している。
日本でも、JASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)がAPI技術ワーキンググループを設置し、2026年4月にボディ系のビークルAPI「Yoriito(ヨリイト)」を公表した。
ただし、これらは「車両の状態取得やボディ系機能へのアクセスを中心にした色合いが強い」と高田氏。目指すのは「サードパーティーのアプリ開発者が車両の違いを意識し過ぎずに使え、かつOEMの差別化や安全性も損なわないAPI」(同)である。
一方、標準化の主導権を自動車業界の外にゆだねてしまうと「米Googleや米Apple、Huaweiといったスマホ関連企業が作るAPIが標準になりかねない」(高田氏)。
実際、Huaweiのシステムを採用した中国車では、大きなタッチパネル1枚で物理スイッチをほとんど持たないHMI(Human Machine Interface)に収れんしている。自動車メーカーが「独自の価値を出す余地を守るためには、自分たちの手でAPIを設計する必要がある」と高田氏は話す。
名古屋大学が呼び掛け、2024年に発足した「Open SDV Initiative」には、ソフトウェア企業を中心にOEMやサプライヤーなど、2026年6月時点で約60社が参加する。そこでは「SDV技術者の育成も目的の1つ」(高田氏)にある。
作成したOpen SDV APIは、JASPARなどの標準化団体に提案していく。仕様は半年に一度のペースで公開され、最新版は『2026年3月版(202603α)』に当たる(図2)。シミュレーターや実車を用いたPoC(Proof of Concept:概念実証)のほか、サービスを体験できる環境「MESH」の構築も並行して進める。
価値あるアプリが使えるようAPIを固め過ぎない
ビークルAPIに求められる要件を高田氏は、現時点で次の3つに整理できるという。
要件1:アプリの開発を容易にする
サードパーティーの開発者は必ずしも自動車に精通しているとは限らない。彼らにとって使いやすく、一度開発したアプリが多くの車両に適用できることが欠かせない。
要件2:OEMによる車両の差別化を阻害しない
パワートレインの種類、ボディの形、ドアの数など、ハードウェアのバリエーションに配慮し、自由な構成に適用できるAPIでなければならない。
要件3:価値のあるアプリを安全に扱える
クルマの機能を外部のアプリから操作可能にした場合、内容によっては危険を及ぼしかねない。だからといってAPIの機能を固め過ぎてしまうと、面白いアプリが生まれないかもしれない。そのためにリスクのあるAPIもあえて残した上で、どの場面で使えるかを「リスク制御機能」で管理する。
具体的には、アプリがAPIを呼び出すことによって生じ得る潜在的リスクを記述した車両の構成情報と、アプリによるその対応内容を記述した「マニフェスト」を利用する。OEMがリスクへの対応の妥当性を審査してマニフェストに署名、さらにユーザーが承認して初めてアプリがAPIを呼び出せる仕組みだ。例えば「窓の挟み込み対策を車両側の『ビークルOS』が担うのか、アプリ側が担うのかといった責任分担のパターンを複数用意し、いずれかが成り立てば動作を許可する」(高田氏)というアプローチを採る。
これは、安全確保の責任分担そのものをモジュール化する試みでもある。「APIを決めるとは、流れるデータの仕様を決めるだけでなく、万が一の際の安全確保の責任がどちら側を決めることだ」と高田氏は強調した。
