- Column
- 顧客の声が導く次なるCXのシナリオ
AI時代の企業競争力は、顧客の成功に向き合う誠実さと信頼関係にある
「CX Day 2026」より、名城大学 経営学部 教授の山岡 隆志 氏
顧客利益を優先する企業は結果として強くなる
カスタマー・アドボカシー志向を構成する要素として山岡氏は(1)顧客利益の最大化、(2)最高の製品、(3)透明性、(4)誠実性、(5)相互支援の5つを挙げる。
顧客利益の最大化を優先した好例として、家電量販大手のヨドバシカメラが挙げられる。山岡氏は、自らの体験を引き合いに出し、店舗で販売員に相談したところ「自社で扱う商品ではなく、メーカー直販サイトで販売されている商品の方が顧客のニーズに適していると判断され、その場でメーカーのWebサイトを案内された」という。
この対応について山岡氏は「その場限りの売上にはつながらなくても、企業利益より顧客利益を優先する行動であり、結果として顧客からの強い信頼の獲得につなげている」と分析する。
誠実性の実践例では、ビルメンテナンスを手掛ける四国管財が挙げられる。同社では、顧客から寄せられるクレームを「ラッキーコール」と呼び、サービス改善の機会として積極活用している。
一般に、クレームを企業にとって歓迎すべきものと捉え、積極的に受け入れる企業は多くない。コンタクトセンターの電話番号を見つけることさえ難しいWebサイトも少なくないのが現状である。これに対して四国管財は、クレームを経営改善の源泉とまで位置付け「すべてのクレームが社長まで報告され、新たなビジネスを生み出すための情報として活用している」(山岡氏)
誠実な対応を積み重ねた結果、同社は顧客企業から絶大な信頼を獲得してきた。祖業の清掃に留まらず、警備や設備管理、託児所運営など、新たな事業を顧客から任されるようになってもいる。山岡氏は「顧客との信頼は、企業の既存の専門性や事業領域を超える力を持つ」と力を込める。
AI時代の競争力は信頼のネットワークにある
AI技術の進化により、業務効率化や品質向上は、誰もが実現しやすいものになった。しかし、顧客との信頼は短期間で構築できるものではない。効率が民主化される時代だからこそ、山岡氏は「人間同士の信頼こそ、最後の差別化資源になる」と力を込める。
企業は広告や営業といった「売るための仕組み」だけに投資するのではなく、「顧客が自らの成功体験を共有し、顧客同士が支え合うコミュニティを経営の核として育てることが重要になる」(山岡氏)という。
山岡氏はそのプロセスを次のように説明する。
「企業は、まずアドボケイトを発掘し、その推薦行動を組織的に支援することで、信頼のネットワークを育成する必要がある。次に、顧客がファンになるような成功体験を意図的に設計し、顧客の成功そのものを企業がデザインすることが重要となる。さらに、アドボケイトを中心として顧客同士がつながり、支え合う場を企業が設計することも求められる。こうした取り組みを通じて、企業はAI時代における本質的かつ持続可能な競争優位を築くことができる」
講演の最後に山岡氏は「カスタマー・アドボカシー志向は、人間同士の信頼を経営資産へと転換する、持続可能なアプローチとなるだろう」と締めくくった。
