- Column
- 顧客の声が導く次なるCXのシナリオ
AI時代の企業競争力は、顧客の成功に向き合う誠実さと信頼関係にある
「CX Day 2026」より、名城大学 経営学部 教授の山岡 隆志 氏
AI(人工知能)技術によりマーケティングが高度化し、製品やサービスの販売効率は大きく向上している。その中で企業の競争優位は、顧客の利益を優先する姿勢から生まれる信頼にあるという。名城大学 経営学部 教授の山岡 隆志 氏が「CX Day 2026」(主催:インプレス、2026年6月19日)に登壇し、企業を積極的に推奨する「アドボケイト(Advocate:擁護者・推奨者)」の存在を、企業戦略に取り入れるべきだと提言した。
「顧客との信頼は、既存の事業領域すらも超えていく。顧客の成功にコミットし続けることで育まれた強固な信頼こそが、企業に新たなビジネス機会をもたらす資産になる」--。名城大学 経営学部 教授の山岡 隆志 氏は、こう語る。
AI技術が進化するほど「売る」だけでは選ばれなくなる
広告配信やレコメンドを用いたマーケティングは現在、高度に最適化されている。その中ではAI(人工知能)技術の進化により「どの顧客に、どの商品を、どのタイミングで提案するか」を正確に判断できるようになっているのが現状だ。
一方で山岡氏は「AI技術による最適化が、必ずしも顧客利益と一致しない場合もある」と指摘する。例えば、不安や迷いに付け込んだ訴求、高価格でも購入しそうな顧客への価格提示、本当に必要とは言えない商品の販売といった施策だ。短期的な売上だけを見れば売上につながるため「企業側からは『成功』と評価される可能性がある」(同)
しかし、企業が長期的に成長していくために山岡氏は「単に商品を売ることだけではなく、商品を売らないという判断も含めて『顧客の成功が自社の成功につながる』という発想への転換が必要だ」と強調する。
「ウェルビーイング(Wellbeing:幸福感)」を研究テーマの1つとする山岡氏は、企業にとって「『売れた』商品であっても、それが必ずしも顧客のウェルビーイングにつながるとは限らない」と説明する。その中では「『いかに売るか』ではなく『顧客が本当に成功しているか』を基準に考える必要がある」(同)
信頼でつながる「アドボケイト」が企業の推奨者になる
顧客の成功を重視する中で、山岡氏が研究を進めるのが「アドボケイト(Advocate:擁護者・推奨者)」という概念だ。アドボケイトとは、単なる商品のリピーターではない。「企業やブランドを信頼し、自発的に他者へ薦め、時には企業を擁護するほど高いロイヤルティを持つ顧客」(山岡氏)を指す。
マーケティングでは、顧客が「見込み客→顧客→リピーター→支持者→アドボケイト」というロイヤルティの段階を経て成長するとする考え方がある。最終段階であるアドボケイトに達すると「企業自身ではなく、顧客が主役となってマーケティング活動を担うようになる」(山岡氏)という。
ただし、過去に導入する企業も多かった「インフルエンサー・マーケティング」とも明確に区別される。インフルエンサーの核は「影響力」であり、必ずしもブランドへの愛着を必要としない。一方のアドボケイトは「『その企業を本当に信頼し、自ら推奨したい』という感情が出発点」(山岡氏)にある。
アドボケイトは「ブランドへの批判が起きた際にも自発的に企業を擁護する存在」(山岡氏)になる。企業にとっては、広告費を投じて獲得する消費者ではなく「自らブランドの価値を語り、新たな顧客との接点を生み出してくれる『共創パートナー』と言える」と山岡氏は強調する。
カスタマー・アドボカシー志向が企業利益をもたらす
アドボケイトの概念そのものは、1990年代の「リレーションシップ・マーケティング」までさかのぼる。近年は、SNS(Social Networking Service)やレビューサイトの普及によって「顧客同士のコミュニケーションや情報発信力が飛躍的に高まり、近年改めて注目を集めている」(山岡氏)
特に転換期となったのがコロナ禍のタイミングだった。当時「お気に入りの店舗を応援するために積極的にサービスを利用し、その様子をSNSで発信する人が数多く見られた」(山岡氏)という。苦境にあるブランドを自発的に擁護する行動こそが、アドボケイトの典型例だ。
顧客の支持を得る活動、すなわち企業が「カスタマー・アドボカシー志向をマーケティング戦略に据えることによって持続的な企業利益がもたらされる」と山岡氏は強調する(図1)。
