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  • 顧客の声が導く次なるCXのシナリオ

アフラック生命保険、VoCから顧客の「なぜ」を解き明かし顧客接点を再創造

「CX Day 2026」より、執行役員の松尾 栄一 氏

江嶋 徹
2026年8月26日

AI(人工知能)技術の進化によって、企業と顧客の接点は増えたように見える。しかしその先では、蓄積されたVoC(VoC of Customer:顧客の声)をどう経営の意思決定に結び付けて、問い合わせが発生する構造そのものを変えていけるかが問われる。アフラック生命保険で執行役員を務める松尾 栄一 氏が「CX Day 2026」(主催:インプレス、2026年6月19日)に登壇し、2026年を「AX(AI Transformation)元年」と位置付ける同社の戦略と、VoCから顧客接点そのものを再創造する狙いを語った。

 「コンタクトセンターでは、顧客が問い合わせてきた『なぜ』が分かれば、そもそも顧客に電話をかけさせずに済む。目指すのは個々の問い合わせ対応の改善ではなく、問い合わせが発生する構造そのものの解消にある」--。アフラック生命保険 執行役員の松尾 栄一 氏はこう話す(写真1)。アフラックは、契約者数1381万人、保有契約2218万件という国内トップクラスの顧客基盤を持つ。

写真1:アフラック生命保険 執行役員の松尾 栄一 氏

デジタル部門を持たない組織が目指すDXの新フェーズ

 講演の冒頭、松尾氏はアフラックの組織的な特長として「『デジタル部門』に相当する組織が存在しない」ことを挙げる。IT部門と、契約部・保全部・保険金部などのバックオフィスを一体化した「ITデジタルオペレーション部門」として運営する体制だ。

 この判断を松尾氏は「かなり思い切った」と評価する。「“デジタルの市民化”という言葉があるが、ITは特定の部門のものではないという考え方を、業務に落とし込むために一体化した」(同)

 その同社ではこれまで、「コアビジネスの進化」「新規ビジネスの創出」「基盤整備」の3本柱でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきた。そこに2026年、新たなフェーズとして「AX(AI Transformation)元年」を掲げた。

 松尾氏の定義によれば、AXとは「AI(人工知能)技術を企業の中核能力として位置付け、人とAI技術が密接に協働することで、顧客体験や代理店支援、社員の働き方そのものを再創造する」取り組みを指す(図1)。「改善」ではなく「再創造」という言葉の選び方に、経営としての覚悟がにじむ。

社内、代理店、顧客へと3段階でAI技術を実装

 アフラックのAI活用は、一足飛びではなく段階を踏んできた。2023年には社内向けツール「Aflac Assist」を導入。翻訳や要約、文書構成のチェックなどをセキュアな環境で実行するツールとして提供した。翌2024年には、代理店向けツール「アフラックAIパートナー」で、代理店がマニュアルや研修資料を活用するシーンの支援を始めた。

 そして2025年からは、顧客向けサービス「アフラックAIサポートコンシェルジュ」を開始し、デジタルヒューマンアバターによる24時間365日の対応を一部本番化している。松尾氏によれば「住所変更などの手続きはすでに実用段階に入っており、今後は対応範囲の拡大を計画している」という。

 ただし松尾氏が繰り返し強調するのは「AIを入れればいいわけではない」という一線だ。同社は、著作権やAI技術の誤動作リスクに対応する「統制管理体制」を整備し、リスクベースドアプローチとライフサイクル管理を徹底する。「全社横断で責任を明確にしながら本番化を進める体制こそが、AXを安全かつ確実に推進する土台となっている」(同)

 アフラックが今力を入れるのが「お客様の声を経営に生かす取り組み」(松尾氏)だ。その土台として、同社では2010年から、ISO 10002に準拠した「苦情対応マネジメントシステム」を運用している(図1)。「2025年実績では、苦情:5万4000件超、相談・要望:約10万件、感謝の声:1万件超と、大量のVoC(Voice of Customer:顧客の声)声が寄せられている」(同)状況だ。

図1:アフラックの「苦情対応マネジメントシステム」の概要

 注目すべきは、PDCAサイクルを現場レベルと経営レベルの「二重」で回す構造だ。現場では苦情管理データベース(DB)に全役職員がアクセス可能な環境を整え、VoCを必ず登録することを徹底する。同時に、取締役会や「お客様サービス推進委員会」といった経営レベルのPDCAとリンクさせ「経営判断が必要な案件は速やかに上程して、意思決定する体制を敷く」と松尾氏は説明する。

 この苦情管理データベースに集まる非構造化データの分類に、AI技術を本格導入したのが、2026年4月のことだ。それ以前「四半期ごとに1万件を超えるVoCを人手で分類しており、大変な作業だった」と松尾氏は振り返る。AI技術による分類はまだ試行錯誤の段階にあるが「将来的には経営のPDCAへのフィードバック速度を大幅に加速させる」(同)狙いだ。