- Column
- 顧客の声が導く次なるCXのシナリオ
エア・ウォーター、営業の提案力と組織の統制を全社AI活用で支える
「CX Day 2026」より、上席執行役員 AI・DX推進部長の秋田 正倫 氏
商談の前後を支えるAIアプリを開発
営業DXの中核を担うのが、自社開発のAI営業支援アプリケーション「AW Sales Assist(ASA)」だ(図3)。秋田氏によればASAは「商談『前』の準備を効率化する役割と、商談『中・後』の作業を自動化する役割の、2つの機能を持つ」という。
商談前には、顧客情報をAI技術が分析し、アカウントプランや提案の“ストーリー”を自動作成するほか、商談で使える“会話のネタ”までを収集する。商談後には、議事録やプレゼン資料を自動でまとめ、さらに商談の「良し悪し」までを診断してSalesforceに反映する仕組みだ。「企業情報から推定課題を抽出し、相手の役職やタイプに応じた提案書を生成する一連の流れをアプリにした」(秋田氏)
ただし、秋田氏は「アプリを作って“使ってください”で終わるわけにはいかない」と強調する。導入に当たっては、エア・ウォーター西日本のトップ自らが目的を説明し、グループワークやAI技術を使った商談ロールプレイを重ねることで、社員への定着を図った。その結果「2025年末時点でアプリを活用した社員は55名に上り、営業工数を18.5%削減した」(同)という。
さらに「アプリの活用がなければ生まれなかったとみられる新規受注も6件生まれた」(秋田氏)という。活用から定着へと続けるのは簡単ではないが「若手を中心に楽しみながら徐々に結果を出し始めている」(同)との手応えだ。
営業現場に生まれた意識の変化もある。「競合と比較して、どこから調達すべきかをAI技術に尋ねるのが当たり前になりつつある」(秋田氏)という。これからは「自社がAI技術にどう評価されるかを意識しながら、BtoB(企業間)の関係を築いていく方向へ変化していることを感じる」(同)と、営業担当者に新たな競争軸への気付きも生み出している。
AI技術と設計する「ワークプランニング」へ
営業DXの先に秋田氏が見据えるのは、業務全体の再設計だ。エア・ウォーターでは、バックオフィス業務を19の業務に整理し、さらに定型/非定型業務として99の単位に分解し、負荷が集中する業務を特定した。その上で「AI前提での業務フローを描き直し、必要に応じてエージェント化・標準化する『BPR(Business Process Re-engineering)マトリクス』のアプローチを採る」と秋田氏は説明する。背後では、3年間で1万体のAIエージェントを生み出す「AWエージェントファクトリー構想」も動いている。
その根底には、発想の転換がある。秋田氏は「これまでは人に仕事を任せる『ワークフォースプランニング』が前提だった。これからは、どこをAI技術にまかせ、どこを人が担うかを組み合わせて標準の業務フローを組み立てる『ワークプランニング』が重要になる」とみる。
ワークプランニングを担う人材としては、データを設計・統制する「グループデータアーキテクト」の育成を進める。加えて「AI前提の業務改革を担う『FDE(Forward Deploy Engineer)』の育成を、座学ではなく実践型で進めている」(秋田氏)状況だ。
会社の変化は「自身の働き方にも及んでいる」と秋田氏。例えば、数百人が関わる大規模プロジェクトでは定例会議で状況をまとめるのではなく「共有フォルダの情報をAI技術に読み込ませてダッシュボードを自ら作成し、メンバー全員がそれを見ながら現状を把握し、次の一手を動かすようになった」(同)という。
その結果を秋田氏は次のように評価する。
「『あれはどうなっているのか』と私が聞く必要がなくなった。見てもらえていると分かれば、メンバー側にも証跡を残そうという動機が生まれる。リーダー自身が積極的にAI技術を使う姿勢こそ重要だ」
証跡が信頼を生み、信頼が営業を強くする
日々の業務の証跡を残すという行動は、トラストDXにもつながっている。例えばプロジェクトの営業進捗は、元々監査や業務プロセスの統制を目的に集めているデータと、性質としては同じものだからだ。
秋田氏は「営業のためだけにデータを集めるのは難しいが、統制目的の延長で最適化するアプローチなら進めやすい」と話す。記録が統制のためのデータとなり、そのデータが売上や顧客の潜在ニーズの分析にも生かせるため「トラストDXと営業DXは決して切り離せない関係にある」(同)
講演の最後に秋田氏は、「変革の『波』が来るタイミングを正確に捉え、必死に動かなければ乗れない。そして、乗り遅れた波には決して追い付けない。私たちはAI技術という大きな『波』を捉え、営業をはじめとするあらゆる現場の働き方を変えていく」と力を込める。
