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エア・ウォーター、営業の提案力と組織の統制を全社AI活用で支える

「CX Day 2026」より、上席執行役員 AI・DX推進部長の秋田 正倫 氏

阿部 欽一
2026年10月26日

200社超、従業員2万人規模のグループを率いるエア・ウォーターは、全社共通のデータ基盤とAI(人工知能)活用を横断的な土台に据え、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて提案の質を高めながら、統制やガバナンスの強化にもつなげている。同社 上席執行役員 AI・DX推進部長を務める秋田 正倫 氏が「CX Day 2026(主催:インプレス DIGITAL X、2026年6月19日)」に登壇し、商談前後を支える独自アプリケーションの導入から、業務全体の再設計に及ぶ現場の変化について話した。

 「以前はAI(人工知能)技術に“聞く”という感覚だった。それが今は、仕事そのものを“お願いする”ようになった。優秀でポテンシャルの高い新入社員が、隣で一緒に働いてくれているような感覚がある」--。エア・ウォーター 上席執行役員 AI・DX推進部長の秋田 正倫 氏は、AIエージェントがもたらした働き方の変化をこう表現する(写真1)。

写真1:エア・ウォーター 上席執行役員 AI・DX推進部長の秋田 正倫 氏

 クラウド型AIやAIエージェントが相次いで登場した2026年を、秋田氏は「非常に大きな変革の年」だと位置付ける。インターネットとモバイルによる「情報革命」は、働く時間と場所の制約を解いた。続く「『AI革命』は、超高速処理や創造性の拡張を通じて、人の認知能力そのものの制約を解放するものだ」と秋田氏は説明する。

 もっとも、AI活用が進んできたとはいえ、職場での日常業務におけるAI利用率は、世界の約60%に対して日本は約30%にとどまるというデータもある。企業としての導入率も、海外の55〜60%に対して日本は約25%と、その差は依然として大きい。秋田氏は「世界に追い付こうとしている2026年こそ、働き方を変える好機だ」と強調する。

データ統合で“自動運転経営”を実現する

 エア・ウォーターは産業ガス事業を源流に、農業・エネルギー・医療など事業を多角化してきた。2026年3月期の連結売上収益は1兆668億円に達する。一方で、事業成長の過程でM&A(企業の買収・統合)を重ねた結果「200社を超える子会社は、システムも企業文化もバラバラな状態」(秋田氏)にあった。秋田氏は「1兆円企業に相応しいガバナンスを備えた“自動運転経営”を目指している」と力を込める。

 その戦略の骨子となるのが「3本の柱」だ(図1)。(1)データドリブンな意思決定を進める「経営DX」、(2)業務そのものをAI前提で刷新する「業務DX」、(3)統制強化を目的に新設した「トラストDX」、の3本である。これを、全社共通のデータマスタ基盤とAI活用が横断的に支える構造になる。なかでもデータの蓄積は、業務DXの柱である営業DXの提案力向上を支えると同時に、トラストDXが目指す信頼性基盤の強化にもつながっていく。

図1:3本の柱とAI強化で進める全社AI・DX戦略

 そのうち経営DXでは、15年をかけたERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システム統合の限界を踏まえて「システム統合」から「データ統合」へと舵を切った。マネジメント要求を起点にデータ要求・業務要求を定義し「ガバナンスルールとともに、社内にある種々のシステムからデータを集める仕組みづくりを2年前から進め、2025年末から運用を始めている」(秋田氏)という。

 現在は、各関連部門と連携しながら、会計・人事・販売といったデータをBI(Business Intelligence)ツールで可視化し、データドリブン経営を進めている段階にある。整備されたデータ基盤の上に「今後は月次会議を廃止し、AI技術がデータの差異を分析して要因をレポートするといった“動的な経営”への転換も見据えている」と秋田氏は説明する。

営業業務の3分の1しか付加価値業務に使えていない

 経営DXの発想を、業務の現場に落とし込んだのが業務DX、その中心が「営業DX」だ。グループ企業であるエア・ウォーター西日本ではまず「営業担当者の業務を外部のコンサルティング会社と共に分析する実態調査から着手した」と明かす。

 そこで浮かび上がったのは「売上に直結する付加価値業務に費やせている時間が、全体の約3分の1に過ぎないという実態」(秋田氏)だった。将来の成果に向けた戦略立案・実施に関わる時間はわずか3%にとどまる一方「社内報告や会議業務には月17時間が費やされていた」(同)という。

 この背景には、エア・ウォーター固有の事情も関わる。秋田氏は「商材が非常に多く、顧客層も多岐にわたる。そのすべてを頭に入れて最適な提案を組み立てるのは難易度が高く、力量のある担当者と及ばない担当者の差が大きかった」と構造的な課題を説明する。

 営業DXの狙いは「単なるツール導入ではなく、営業の稼働創出とサポートが目的にある」と秋田氏は話す。この方針の下、それまでExcelで個別管理していた営業活動の管理をCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システム「Salesforce」(米Salesforce製)に一元化した(図2)。

図2:営業DXの全体像と業務効率化の効果

 もっとも「当初から現場が前向きだったわけではない」と秋田氏。例えばある営業担当者は「通常業務と並行して新しい仕組みを覚える必要があり、抵抗感は強かった」(同)という。

 それでも一元化が進むにつれ、過去データの追跡や引き継ぎが容易になったことで、現場の評価は変わっていく。案件を登録しておけば「『担当マネージャーが交代しても、登録された案件をたどることである程度の引き継ぎが成り立つ』といった声も上がっている』と秋田氏は強調する。