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  • 実測データとAI技術で高めるデジタルツインの価値

物理ベースモデルとAIの融合が切り拓く次世代MBSEとデジタルツイン

「インダストリアルデジタルツインサミット 2026」より、米Gamma Technologies日本法人 ビジネスデベロップメントの相原 ロドリゴ 氏

齋藤 公二
2026年8月31日

物理モデルとメタモデルの融合により精度と計算速度を両立する

 デジタルツインの代表的なユースケースとして注目されるのが、物理的に感知できない変数を監視する「仮想センサー」だ。例えば、エンジンシリンダー内部の温度や燃焼状態、部品の熱負荷といった重要データは、実機に直接センサーを設置しようとすると、高価なセンサーや特殊な装置を要したり、物理的に測定が不可能だったりするケースも多い。

 仮想センサーの適用では、電流や温度、圧力といった取得可能な実測データから物理ベースモデルや機械学習を用いて、実センサーで測定できない内部の状態をソフトウェア上で算出する。

 熱交換器の汚れやバルブの故障、EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)の詰まり、バッテリーの電解質劣化や冷却液漏れといった障害検出においても真価を発揮する。相原氏は、「ソフトウェア演算によってリアルタイムに状態を捉えられる点が仮想センサーの強みだ」と強調する。

 GT-SUITEでは「物理ベースモデルとメタモデルを相補的に活用できる」(相原氏)とする(図3)。具体的には、変化への追従性に優れる物理モデルの強みと、高速処理が可能なメタモデルの強みを掛け合わせることで、それぞれが抱える計算コストや実装面の制約を補い合い、シミュレーションの精度と処理速度を高い次元で両立させている。

図3:精度と計算速度を両立する物理ベースモデルとメタモデルの組み合わせ

 機械学習モデルを構築する局面では「機械学習アシスタント」機能を有効に使う。メタモデルが未知のデータへ適応できるかを事前にトレーニングして評価し、データを連続的な曲面として近似したモデルにする「応答曲面」を視覚的に探索できる環境を提供する。相原氏は「物理ベースモデルの精度をメタモデルに継承する仕組みを用意している」と補足する。

遠隔無人運用では未知の予測に物理ベースのデジタルツインが有効

 物理ベースモデルによってデジタルツインを構築し、バッテリー状態を正確に解析している事例もある。この企業は、センサー、通信モジュール、リチウムイオン電池、太陽電池パネルで構成するソーラー給電型IoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスを遠隔地で無人運用している。

 無人運用では、日照や気温といった環境条件に由来する発電量と、通信頻度による消費電力の変動が複雑に絡み合う。こうした不確実性の高い環境下では「単なるバッテリー残量のモニタリングだけでは、将来の稼働可否を正しく判断できない」と相原氏は指摘する。

 従来型のバッテリー監視は、電圧、電流、温度、SOC(State of Charge:バッテリー充電率)などのテレメトリデータ収集としきい値判定に依存していた。しかし、これら表面的なデータだけでは、容量低下や内部抵抗の上昇、低温環境や高SOC保持が引き起こす劣化など、電池内部で進行する複雑な化学・物理反応までを把握するのは困難だ(図4)。

図4:バッテリー内部の複雑な劣化メカニズムはテレメトリだけでは捉えきれない

 回帰モデルや機械学習による寿命推定で補完する手法もあるが、事前に与えた学習データの分布に依存するため「季節変動や設置場所、運用状況の変化によって予測精度が低下しやすい課題がある」(相原氏)という。

 そこで同社は、物理モデルベースのデジタルツインを構築し、発電、電力消費、熱、電池内の化学反応といった物理現象を統合的に再現した。実機から届くテレメトリデータを入力する仮想モデルを継続的に更新し「将来のSOC予測、現在のSOH(State of Health:健全度)推定、RUL(Remaining Useful Life:残存寿命)の評価までを可能にしている」(相原氏)

 こうして未知の状況への対応では、物理法則に基づく説明が可能な物理ベースモデルの強みで補う。相原氏は「設計段階のモデルを運用目的のデジタルツインへシームレスに拡張し、製品ライフサイクル全体での価値創出を実現した好例だ」と成果を語る。

 デジタルツインの価値最大化では、単なる設計効率化にとどまらず、製品出荷後の運用や保守までを見据える必要がある。講演の最後に相原氏は「複雑化を極める日本の製造業において、物理現象への深い理解に裏打ちされた次世代のシミュレーション技術こそが、開発スピードと高品質を両立させる強力なエンジンとなる」と力を込める。

お問い合わせ先

Gamma Technologies 合同会社

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