• Column
  • 実測データとAI技術で高めるデジタルツインの価値

物理ベースモデルとAIの融合が切り拓く次世代MBSEとデジタルツイン

「インダストリアルデジタルツインサミット 2026」より、米Gamma Technologies日本法人 ビジネスデベロップメントの相原 ロドリゴ 氏

齋藤 公二
2026年8月31日

製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流において、鍵を握るコンセプトとなっているのがデジタルツインだ。米Gamma Technologies日本法人でビジネスデベロップメント プリンシパルエンジニアを務める相原 ロドリゴ 氏が「インダストリアルデジタルツインサミット 2026」(主催:同プログラム委員会/サイバー・フィジカル・エンジニアリング技術研究組合、2026年7月8日)に登壇し、物理ベースモデルとAI(人工知能)技術の融合がもたらすMBSE(Model-Based Systems Engineering)の進化と、その具体的なユースケースを解説した。

 「物理ベースモデル、機械学習、生成AI(人工知能)技術の3つを融合させ、アプリケーションごとに最適な形で組み合わせるのが次世代のMBSE(Model-Based Systems Engineering)の姿だ」--。エンジニアリングソフトウェア開発を手掛ける米Gamma Technologies日本法人で、ビジネスデベロップメント プリンシパルエンジニアを務める相原 ロドリゴ 氏は、こう強調する(写真1)。

写真1:Gamma Technologies ビジネスデベロップメント プリンシパルエンジニアの相原 ロドリゴ 氏

 熱・流体・電気化学・機械などの物理法則を用いて挙動を再現する物理ベースモデルとAI技術の発展により、MBD(Model-Based Development:モデルベース開発)やMBSEは変革期を迎えている。

 従来型の開発は、要求定義書の作成から設計書作成、試作開発、実機テストという手順を踏んできた。MBDやMBSEにおいても、モデル化・要件定義からシミュレーション検証、モデル改善・最適化、高精度実装という工程を組むのが主流だった。

 その延長線上で新たな広がりを見せているのが、物理ベースモデルとAI技術とを統合した「AI統合型MBSE」だ。AI技術が物理ベースのモデルを構築し、PINNs(Physics-Informed Neural Networks:物理法則を組み込んだニューラルネットワーク)を用いた予測などによって「AI自身が学習を重ね、自動最適化を通じた高精度なデジタル検証を実現する」(相原氏)開発手法となる。

 Gamma Technologiesは、自社のシミュレーションツールが備えるマルチフィジックス統合機能やAI・デジタルツイン連携機能、機械学習最適化機能などを通じて、このAI統合型MBSEへスムーズに対応する環境を整えている(図1)。

図1:物理ベースモデルとAI技術を統合した「AI統合型MBSE」の全体像

 同社は「エンジンやバッテリー、車両、熱マネジメントなどの複雑な物理現象を高精度に再現する技術を強み」(相原氏)とする。物理ベースモデルを機械学習に組み合わせることで、パターン抽出やパラメーター推定が可能になる。さらに実運用データを取り込むことで、異常検知やモデル補正の精度向上も期待できる。

 さらに最新では生成AI技術の活用により、モデル開発やシミュレーション設計支援、結果分析、レポート生成、ナレッジ活用までを自然言語ベースで処理する。相原氏は「物理ベースモデル、機械学習、生成AI技術の3つが重なり合う領域こそが、当社の明確な差別化ポイントだ」と自信を見せる。

実機とモデルが相互に更新し合う動的なデジタルツインを運用する

 Gamma Technologiesは、シミュレーションツール「GT-SUITE」を提供している。自動車をはじめとする種々の工業製品の設計、エネルギー効率検証、NV(Noise:騒音、Vibration:振動)評価、熱マネジメント評価などで幅広く活用される。

 GT-SUITEは、化学、電気、流体、熱、機械といった複数の物理領域を1つの環境でシミュレーションするマルチフィジックス基盤だ。例えば自動車では、バッテリーやモーター、パワーエレクトロニクスを含めた車両全体の総合評価を網羅する。「単一分野の解析にとどまらず、自動化や機械学習、AI技術まで幅広く統合し、設計・検証から運用、デジタルツインに至る全プロセスを支援する」(相原氏)

 生成AI技術の適用に向けては「GT Intelligence Studio」という環境を提供する。生成AIと同社の高度なシミュレーション技術・専門知識を融合し、知識活用や自動化、モデリング支援を安全な環境で提供することで、GT-SUITEをより効率的に利用できるよう支援する。具体的には(1)専門家視点のアドバイスで判断を助ける「AI.advisor」、(2)反復作業をスクリプトで自動化する「AI.coder」、(3)モデル開発・検証・最適化を担う「AI.modeler」の3つのコンポーネントで構成される。

 デジタルツインへの展開においても、同社は明確な手法を提示する。デジタルツインは物理的な物体やシステムの仮想的な表現となるが、同社では物理ベースモデルと、大量のデータを学習して高速予測を可能にする「メタモデル(機械学習モデル)」の2つを採用している。「現場では、この2つを組み合わせるアプローチが主流となりつつある」と相原氏は語る。

 デジタルツインの主要アプリケーションには、状態監視と障害検出、オペレーション最適化、予測メンテナンス、耐用年数予測などが挙げられる(図2)。

図2:デジタルツインが実運用で効果をもたらす主要アプリケーション

 これにより、機械のダウンタイム(稼働停止時間)コストの削減、障害の根本原因特定、影響範囲の把握、高額な設備投資の抑制といった効果が期待できるという。相原氏は「実機から継続的にデータを受信し、モデルを更新しながら将来予測や最適化を動的に実施する。その結果を実運用へフィードバックする双方向の循環構造こそがデジタルツインの本質だ」と強調する。