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AI CoEをどう立ち上げるのか―目指す姿と現在地を見直し続ける【第2回】
失敗しない”会社実装”の設計図
(3)差分から施策と順序を決める:AI推進を捉える3つの軸
目指す姿と現在地が明らかになれば、その差分が取り組むべき課題になります。ただし、全ての課題に同時に取り組むことはできません。ですので「どの施策に、どの順序で取り組むのか」を戦略的に決める必要があります。その際の軸になるのは(1)領域の決定、(2)AI技術の活用と推進基盤の整備、(3)組織体制と責任・権限の設計の3つの軸です。
軸1:領域の決定
AI技術の活用施策は大きく、効率化させる領域と高度化させる領域に分かれます。
効率化領域 :全社の業務効率化を進める領域です。社員が日常的に当たり前に生成AI技術を使いこなすことにより、資料や議事録の作成、照会対応などの汎用業務の効率を高めます。AI技術の利用環境とルール整備、育成・教育が施策の中心になります。成果は利用率や削減時間で測ります。比較的早く成果が見えますが、1人当たりの効果は小さく、経営レベルのインパクトには積み上げが必要です。
高度化領域 :業務プロセスの変革や改善・再構築につながる領域です。ヒトの属人的な判断や暗黙知に基づいて処理していた業務に対し、そのナレッジを形式知化・組織知化することでAI技術による実行を可能にします。業務プロセスを“ヒト前提”から“AI前提”に組み換え、AI技術による自動化を図り、ヒトは判断・承認に集中できるようにします。成果は、業務のKPIやトップライン、コスト、リスク低減で測ります。成果が出るまでに時間と投資を要し、事業部門の主体的な関与が欠かせません。
AI技術の活用に向けては、両方の領域が必要ですが、進め方も、関わる部門も、成果指標も異なります。「ヒト(人員)・モノ(実行環境)・カネ(予算)」をどのように戦略的に配分するかを決めるに当たっては、AI CoEとして「成果を全社に広げる」ことを考えなければなりません。
AI技術活用の機運を醸成し組織文化として定着させるためにも、AI CoEは場当たり的に臨むのではなく、実行環境を踏まえ「どの領域に注力することが最適か」「どの順序で進めるのが適切か」を戦略的に練ることが重要です。
軸2:AI技術の活用と推進基盤の整備
AI技術の活用とは、AI技術を業務に適用することで、ユースケースを設計し、業務に組み込み、現場に定着させるまでを指します。領域を定め、活用するテーマを決め、AI技術の活用だけを先行させても、期待した精度が出ず現場が離れてしまいます。
そのため、AI技術の活用だけを先行させるのではなく、それを支えるデータやナレッジ、ガバナンス、人材育成などの推進基盤も同時に整える必要があります。効率化領域では社内情報の検索にはナレッジの整備が不可欠ですし、高度化領域では業務固有のデータの品質が成否を分けます。
ただし、逆に推進基盤の整備だけを先行させると、使われるかどうか分からないままに投資が続き、終わりが見えません。AI技術の活用と推進基盤の整備を両輪として、計画的かつ機動的に進めなければなりません。
軸3:組織体制と責任・権限の設計
AI CoEの組織体制は、各社の状況により、いくつかのパターンが考えられます。独立した専任組織、IT部門のような既存部門が役割を担う組織、経営直轄での組織、複数部門のメンバーで構成するバーチャル組織などです。全社横断型が一般的ですが、各部門にもCoEを設けるケースもあります。
戦略策定と、その実行をどこが責任を持って担うかを明確にし、各社の状況に合わせ適切な組織体制を構築する必要があります。AI技術活用の進捗状況に合わせ、その組織体制も変えていくことになります。究極は、AI CoEがなくてもAI技術の活用によるビジネス価値の最大化が図れている状態が理想です。
進化が速いAI領域では施策や手段は固定できない
上記のプロセスの多くは、種々のCoEに共通しています。ただAI CoEには固有の事情があります。技術の変化が速く、一度決めたアプローチが短期間で変わる可能性があることです。通常の計画では、目指す姿と現在地が決まれば、施策はある程度固定できますが、AI技術活用の推進では、それができません。
例えば、AIモデルの進化により、これまで不可能だったことが可能になります。自社で時間をかけて構築してきた仕組みが、汎用サービスの標準機能に置き換わることもあります。利用コストの低下により、採算が合わなかったテーマが成立するかもしれません。
データ整備の要件も変わります。従来は構造化しなければ扱えなかった情報が、文書のまま扱える範囲が広がっています。同時に「AIエージェントに、どこまでの権限を与えるか」といった新しいリスクも生じます。結果、次の3つの変化が起こります。
変化1 :施策の優先順位が変わる
変化2 :自社で作るのか、外部のサービスを使うのか、技術の成熟を待つのかの判断が常に求められる
変化3 :目指す姿そのものが引き上がる
従ってAI技術動向の収集は、AI CoEの定常的な業務に位置付けられます。それも収集だけでは不十分です。自社の業務と施策に、どのような影響があるかを評価し、戦略に反映するところまでが一連の業務になります。計画の持ち方も変わります。目指す姿は中期で定め、施策は短い周期で見直します。数年先までの詳細な実行計画を固定しても前提が変わるためです。
一方で「変わらないものに投資する」という視点も重要です。モデルやツールは入れ替わります。しかし、経営課題に基づく目指す姿や、業務に対する理解、整備されたデータとナレッジ、育成した人材は、技術が変わっても資産として残るからです。同じ考え方から、特定のモデルやサービスに依存し過ぎず、入れ替えられる構成にしておく必要もあります。
変化への適応をAI CoEに組み込む
目指す姿の定義、現在地の診断、施策と順序の決定は、一度実施すれば完了するものではありません。技術が変われば目指す姿が変わり、施策が進めば現在地が変わります。その都度、差分を確認し直し、施策と体制を見直します。AI CoEの立ち上げとは、組織を作る作業ではなく、この見直しを継続できる状態を作ることです。
既にAI CoEを設置している企業も、目指す姿が経営層と合意されているか、施策が整理されているか、技術変化を戦略に反映する仕組みがあるかを確認する価値があります。組織は存在していても、これらが曖昧なまま活動している例は少なくありません。
次回は、AI CoEが陥りやすい失敗のパターンと、その回避策を取り上げます。
田中 慶亮(たなか・けいすけ)
Trust 執行役員 AI・データ事業部 AI CoE コンサルティング本部長。一橋大学商学部商学科卒。三井住友信託銀行にて、ファンドマネージャーとしてファンド運用や定量モデル開発に従事したのち、デジタル企画部にてAI・データ利活用推進やデータ分析基盤構築、デジタル人材育成に携わり、全社のデジタル推進を牽引。その後、パーソルホールディングスにて、デジタルCoEでのデータ専門組織を立ち上げ、グループ各社向けにAI・BI案件やデータ基盤再構築案件の推進を支援。現在は、Trustにて金融機関へのAI戦略策定支援やAI CoE組織開発支援等に携わり、CoEの羅針盤となるべく活動中。
