• Column
  • AI CoEの作り方・活かし方

AI CoEをどう立ち上げるのか―目指す姿と現在地を見直し続ける【第2回】

失敗しない”会社実装”の設計図

田中 慶亮(Trust 執行役員 AI・データ事業部 AI CoE コンサルティング本部長)
2026年10月9日

前回は「AI CoE(Center of Excellence)」が今、なぜ必要なのかを説明しました。ただ、その必要性を理解しても「どう立ち上げればよいのか」で立ち止まる企業は少なくありません。「部署を作る」「人を集める」「ツールを導入する」といった目に見える作業から着手するのが、その原因です。今回はAI CoEを立ち上げるための出発点を説明するとともに、AI技術の利用を推進することに特有の難しさを整理します。

 前回では「AI CoE(Center of Excellence)」の役割を「方向を定める」「実行環境を整える」「成果を全社へ広げる」の3つに整理しました。そのうえで、重要なのは、組織の名称や形式ではなく、これらの機能を誰が責任を持って担うのかを明確にすることだと指摘しました。AI CoEを立ち上げるとは、その役割を社内で、どのような形で実現するかを決めることです。

AI CoEの立ち上げは目指す姿の定義から

 それは、すなわち(1)目指す姿やゴールを定義する、(2)現在地を診断する、(3)両者の差分を埋める施策と優先順位を決める、の3つの段階を踏むことです。この決め方そのものは特別ではなく、経営計画の策定やシステム刷新の計画と同じです。

(1)目指す姿を定義する:全社のAI活用の姿とAI CoEの到達状態を分ける

 「目指す姿」の定義では、AI活用に向けて全社で目指す姿と、AI CoEが到達すべき状態の2つの階層を区別する必要があります。

AI活用に向けて全社で目指す姿 :デジタル戦略が示す方向性に基づき、AI技術とデータを使って、どのようなビジネス価値を実現し、どの領域で競争力を高めるのかを定めます。売り上げや利益、顧客体験、事業モデルといった経営レベルの言葉で記述します。

その実現に向けてAI CoEが到達すべき状態 :ここで明確にすべき状態とは「全社の活用テーマの優先順位が一元的に管理されている」「現場が新しいテーマを始める際の環境と手続きが整っている」「ある部門の成果が他部門で再利用されている」などを指します。

 ただし、AIなどのデジタル技術の進展は著しく、それを活用したビジネスの将来像を予測するのは困難です。そのため、目指すビジネス像や到達すべき状態も変わっていく可能性もあります。ここで重要なことは「何を目指すのか」という"北極星"を定めることです。その北極星は、技術の進展・変化により動くことはあっても、会社としての方向性を指し示していくものになります。

(2)現在地を診断する:現状と課題を原因まで洗い出す

 現在地を確認する前に目指す姿を定義するのには理由があります。基準のない診断は網羅的な現状調査になるからです。時間がかかるうえに、何が課題なのかを判断できません。目指す姿があれば、それに関係する範囲を重点的に確認できます。

 診断の観点を今回は、金融データ活用推進協会(FDUA:Financial Data Utilizing Association)が公開している『金融データ活用組織チェックシート』に基づいて説明します。金融業界に向けたチェックシートですが、幅広い業界で共通する観点が取り上げられています。

 同チェックシートは、成果を生み出す側の「活用レベル」と、それを支える側の「インフラレベル」に分かれています。両者で合計6つのテーマを設定しています。活用レベルのテーマは、利用データ、組織、ビジネス効果の3つ。インフラレベルのテーマは、データ基盤、人材育成、ガバナンスの3つです。

活用レベル
● 利用データ :自社データや外部データが、どの程度蓄積され、品質が管理され、利用目的や運用ルールが明確になっているか
● 組織 :データ活用に関わる各組織の役割と責任が定義され、組織横断で取り組む体制があり、活動を評価する仕組みと、全社に浸透させる文化醸成の取り組みがあるか
● ビジネス効果 :目標が経営や部門の目標から落とし込まれ、施策の優先順位付けと関係部門との合意形成ができており、効果を検証し、成功事例を他業務に横展開できているか

インフラレベル
● データ基盤 :必要なデータを整備するための機能を備え、安定稼働、拡張性、セキュリティ、障害対応といった非機能面が整っているか
● 人材育成 :目指す人材像と育成ロードマップが定義され、教育コンテンツと育成手法が整備され、技術動向の変化に対応した育成と、習得状況の評価やインセンティブの仕組みがあるか
● ガバナンス :経営層の承認の下で推進され、ポリシーや規程が明文化されて運用され、開発・運用プロセス、セキュリティ、プライバシー、AI倫理に関する管理の仕組みがあるか

 これらの診断は精緻に実施する必要はありません。診断の目的は、網羅的な評価報告書を作ることではなく、目指す姿との差分を明らかにすることだからです。診断に時間をかけすぎると、結果が出る頃には状況が変わっています。