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- “正論“では動かない!人が動きたくなるゲーミフィケーションの基礎と実践
なぜ今「ゲーム」の考え方が必要なのか【第1回】

“正論”だけで人は動きません。しかし“楽しさ”を味方につければ、組織は劇的に変わり始めます。そうした“楽しさ”をビジネスに採り入れる手法に、ゲームの知見を利用する「ゲーミフィケーション」があります。本連載では、ゲーミフィケーションの基礎から実践策までを解説します。第1回は、なぜ今、ビジネスの、それもDX(デジタルトランスフォーメーション)という文脈において「ゲーム」の考え方が必要なのかについて説明します。
近年、あらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが当たり前になりました。AI(人工知能)技術のビジネス活用、業務プロセスの自動化、顧客データの統合管理など、企業のデジタル活用への投資はとどまるところを知りません。しかし、多くの企業の事業部門でDXを推進するリーダーたちからは、次のような“悲鳴”が聞こえてくるのも、また事実です。
「高額な営業支援システムを導入したのに、営業担当者が面倒くさがってデータを入力してくれない」
「社内のナレッジ共有ツールを刷新したが、書き込むのは一部のメンバーだけで、大半の社員は見に来るだけになっている」
「リスキリングの一環でeラーニングを導入したものの、受講率が上がらず形骸化している」
最新システムを導入し、業務フローを整え、お膳立ては完璧なはずなのに、なぜか現場に浸透しない--。こうした「システムや仕組みは作ったが人が動いてくれない」という課題は、DX推進における大きな壁の1つです。
なぜ多くの企業は“真のDX”に辿り着けないのか
まず、私たちが直面している“課題の現在地”を整理してみましょう。多くの企業において、紙の書類をPDF化したり、対面での会議をオンラインに移行したりするデジタイゼーション(Digitization)や、個別の業務プロセスをデジタル化するデジタライゼーション(Digitalization)は、ここ数年で一気に進みました。
しかし、デジタル化による「X(Transformation :変革)」、すなわち「デジタル技術とデータを活用して、組織やビジネスモデル、ひいては企業文化そのものを変革し、新たな価値を創造する」という領域にまで到達できている企業は決して多くはありません。なぜ、ツールの導入まではスムーズに進むのに「変革」の段階で足踏みしてしまうのでしょうか。
それは、多くのDXプロジェクトが“機能的価値”の提供だけで満足してしまっているからです。
「このツールを使えば業務時間が20%削減できます」
「このシステムによってデータの可視化が容易になります」
これらは全て“正論”であり、客観的な事実(機能的価値)です。しかし、正論だけで人間が動くのであれば、世の中からダイエットに失敗する人や、言語の習得を途中で断念する人はゼロになっているはずです。
デジタル化までは順調に進む。しかし、その先の“真のDX”に行き着かない。その理由は、システムやツールのスペック不足にあるのではなく、それを使う“人間の巻き込み”に失敗しているからです。
最大の障壁は“人の心”、浸透・継続を拒む3つのバイアス
新しい取り組みを進める際に、事業推進者が突き当たる最大の壁は「いかに組織を巻き込み、社内に浸透させ、新しい行動を継続してもらうか」という点に集約されます。
人間は本質的に“変化を嫌う”生き物です。心理学や行動経済学では、人間が新しい行動を起こし、それを続けることの難しさを、例えば次のようなバイアス(心の癖)として示しています。
現状維持バイアス :「今のやり方のほうが慣れていて楽だ」と感じ、客観的に優れた新しい方法への移行を拒む心理
現在志向バイアス :「将来の大きなメリット(例えばDXによる業務効率化)」よりも「今この瞬間の面倒くささ(例えば新しい操作を覚える苦労)」を過大に評価してしまう心理
認知の過負荷 :覚えるべきルールや操作が多すぎると脳が疲弊してしまい、行動そのものを諦めてしまう現象
新しいツールを導入した直後、現場の担当者にとっては「操作を覚えるのが面倒」「これまでの表計算ソフトでの管理のほうが早かった」というネガティブな感情が先行します。いくら経営陣や推進部門が「会社のため、将来のため」と正論を唱えても、現場一人ひとりの心の中にあるバイアスを解除できなければ、ツールはただの“お飾り”と化してしまいます。
つまり、DXを成功させるためのミッシングリンク(失われた環)は、高度なテクノロジーではなく「どうすれば現場のメンバーが、自発的に、かつ楽しんでそのツールを使い続けたくなるか」という“浸透と継続”のための人間中心の体験設計(UX:User Experience)なのです。