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BIは単なる可視化ではない、技術より先に組織を考えよ

マイクロストラテジー・ジャパンの印藤 公洋プレジデント

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年11月20日

サイロ化するデータをプラットフォームにまとめる

 ポップアップ表示される情報は、いずれも企業がすでに持っているものです。ただし、あるデータはERP(統合業務システム)のSAPに、別のデータはSFA(営業支援システム)のSalesforce.comにというように、別々のシステムに入っているケースがほとんどです。それらを個別にアクセスし調べていては時間がかかり過ぎるため、データをプラットフォームにまとめ、そこから必要なデータを取り出せるようにするのです。

 HyperIntelligenceの特徴は、わざわざBIツールを使わなくても、普段使っているアプリケーションにBIツールが入り込み、必要な情報を提供できることです。「さっきは必要だったけれど今はもういらない」ということもありますからリアルタイム性も重要です。

 現場のニーズへの個別対応も必要です。一口にBIといっても、部門ごとにベースになる理論が異なります。たとえば製造業の品質管理部門はBIを、不良品の検知に確率論的な見方で使いたいと考えますが、営業部門に確率で動く人はいません。それぞれが情報を得たいタイミングも、インタフェースも異なります。

 ただし部門ごとの要求に応えるために、別々のBIツールを入れるとBI環境がサイロ化されてしまう。全体では大きな重複投資を生みます。MicroStrategyが提唱するプラットフォームの考え方は、ビジネスデータの共通部分は1つにして、そのうえで部門ごとのバラエティを持たせようというものです。

――プラットフォームから作り直すのは、かなりハードルが高い。企業はどこから着手すれば良いのか。

 技術的な部分よりも先に組織を考えなければなりません。多くの企業でデータ活用を検討する部門やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進室などを作っても、なかなか事業にまでインパクトを与えられないのは、事務局的な機能しか持てないためです。担当者が既存事業の業務と兼任になっているなど推進体制にも問題があります。

データ活用に“本気”の組織が不可欠

 先に紹介したヤフーなどでデータ活用の成果が着実に出ているのは、彼らの立ち位置が「自社データの活用が本業」だからです。データを活用したいと考えるのであれば、IT企業でなくても彼らと同じように本腰を入れて体制を作って取り組まなければなりません。

 Excelを使うのに、わざわざ専門組織を作った企業はないわけですが、BIも、導入しっぱなしではExcelの利用度程度に停滞してしまいます。本当のデータドリブン経営をしたいのであれば、しっかりした組織を作って取り組まなければ実現は無理です。

 米国の大手企業には「BIコンピテンシーセンター」という組織があり、そこに数百人が所属しているケースがあります。それだけ投資しても価値があるという認識です。日本企業も、そこに近づく必要があるでしょう。

――ところでMicroStrategy は創業から30年間、一度も他の企業を買収していないという異色の存在だ。技術競争に負けないのか。

 当社は常にテクノロジーに巨額の投資を重ね、絶えずイノベーションを起こしています。2000年には基本的なBIシステムのすべてをブラウザインタフェースに変更しましたし、インメモリーシステムの力を生かし切る64ビット化したシステムも世界で最初にリリースしました。モバイル対応もiPhoneの発売とほぼ同時にリリースしています。

 この背景には、自社技術への自負に加え、買収した企業の技術を使うことは顧客にとって良いことではないという方針があります。どんなに統合しても、どこかに従来とは異なる使い勝手やデータの不整合が起きるからです。

 2000年までに存在していたBIベンダーは、当社以外、他社に買収され姿を消しました。ここ数年で大きくなった新興のBIベンダーも、より大きな企業に買収されています。買収をしなかった当社だけが、買収されることなく単独で生き残っているわけです。

 ある意味、頑ななポリシーを続けられるのは、創業者が変わっていないことが大きいでしょう。創業者でありオーナーであるCEOが大株主のため、上場企業ながらファイナンスの世界と切り離されてきた企業のいいところだと思います。

大手顧客の技術部門とニーズと技術動向をすり合わせている

 加えて、創業当初から、大手顧客が複数存在したことも非常に大きかったと思います。金融や流通の大手企業と大量データを分析するプロジェクトを長年取り組んできました。顧客に鍛えられながら、常に最新の技術を提供してきたのです。

 その過程では、重要顧客の技術部門とは定期的に会合を持ち、顧客ニーズとBIの技術動向をすり合わせています。結果、長期的なロードマップを顧客と共有しながら、互いが成長しながら最新技術を取り込めるようになります。

 当社の年次イベントで当社CTO(最高技術責任者)が数年先までのロードマップを公開すると、参加している顧客企業から歓声が上がることがあります。それだけ、顧客のビジネス課題や目的に当社ソフトウェアが深く入り込んでいることの表れだと言えるでしょう。