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顧客体験を高めるために利用状況示すデータからも改善点を分析・提案する
米Autodesk CCO(最高顧客責任者) エリザベス・ゾーンズ 氏
3D CAD(3 次元でのコンピューター設計)ツールなどを開発・販売する米Autodeskは、顧客の体験価値の統括責任者となる「CCO(Chief Customer Officer:最高顧客責任者)」を置いている。同社のCCOは顧客に対し、どんな価値を提供しようとしているのか。CCOのエリザベス・ゾーンズ(Elisabeth Zones)氏に聞いた。(聞き手は佐久間太郎=DIGITAL X編集部、文中敬称略)
――「CCO(Chief Customer Officer:最高顧客責任者)」という役職は聞き慣れない。どのような領域を統括しているのか。
私が担当しているのは、顧客に対し当社が提供できる価値を最大限に高めるための顧客支援全般だ。当社製品/サービスの導入から活用まで“カスタマージャーニー”全般にわたり関わっていく。
その中で優先事項に挙げていることが大きく2つある。
1つは、顧客とのエンゲージメントを深めることだ。製品/サービスの購入以後、社内で活用していく過程において、技術的な支援を含め、コンサルティングなど、あらゆる手段を通じて顧客が必要とするすべての事項に対応する。
もう1つは「VoC(Voice of Customer:顧客の声)」の集約と、そこからの顧客の利用プロセスへの改善提案だ。当社製品/サービスの改善などにも利用する。VoCを集約するために、「リスニングポスト」と呼ぶ仕組みを構築している。
VoCとしては、製品評価のためのアンケート調査や顧客によるレーティングといった基本的な情報に加え、製品/サービスの利用状況を示すログデータも参考にしている。
これらのデータを詳細に分析することで、顧客が直接のフィードバックを必要としているか、技術的なサポートを必要としているかなど、顧客体験における“感情”までを把握できるように努めている。製品/サービスの改善では、うまく機能している領域と改善が必要なホットスポットを特定する。
――B2B(企業間)の領域では、プリセールスを含め、顧客支援は一般的ではないか。
確かにこれまでも、プリセールス活動をはじめ、製品の購入や契約更新といったタイミングで顧客とのコミュニケーションを図り、エンゲージメントを深めようとしてきた。
今も、製品/サービスの導入によって達成したい目的に合わせて、導入をフォローしたり、より良い体験に向けた追加コンテンツやトレーニングなども提供したりしている。
だが、当社のビジネスモデルは、製品を販売・実装して取引が終わるというモノのビジネスから、顧客の収益とライフサイクルに沿って必要な機能を継続的に提供するビジネスにシフトしてきている。結果、顧客との接点も操作ログなどにも広がり、支援策の提供方法も変わってきた。当社は顧客体験(CX:Customer Experience)そのものをデザインしていきたい。
そこで重要視しているのが、当社における製品開発とは「人とデジタルの相互作用を考慮した“ジャーニー”を設計している」ということだ。
例えば、CADツールの「AutoCAD」であれば、顧客が質問したいときやヘルプが必要なときに向けて、AI(人工知能)技術による機械学習と自動化により質問を事前に予測し、より早期に問題を解決できるように導いたり、さらに役立つ情報を追加で届けたりできる機能を提供するなどである。
――貴社は2022年9月の年次イベント「Autodesk University 2022」において、チーム活動に焦点を当てるクラウドプラットフォームを発表した(関連記事1、関連記事2)。そうしたことも影響しているのか。
その通りだ。当社の製品/サービスの利用者は、もはや設計に携わる開発者だけではない。AutoCADにしても、従来の設計部門やエンジニアリング部門に加え、企業内にあるさまざまなビジネス部門との連携が必要になってきている。新しいクラウドプラットフォームは、そうした異なる部門を結び付けるためのインタフェースとして機能する。
これからの企業活動に不可欠なサステナビリティ(持続可能性)やサーキュラーエコノミーの実現に向けては、設計から生産、出荷、保守、回収までのバリューチェーン全体にわたるデータが必要になる。さらにCO2削減では、取引先などを含めた顧客のバリューチェーン全体を見通さなければならない。
新プラットフォームは、異なる場所にあるデータを連携し、さまざまな方法でチームが協力できるようにすることで、企業が利益を得られるようにする。そのためのデータモデルや論理的なユースケースも提供する。
こうした機能強化により、顧客は、より多くのことが可能になる一方で、より多くのガイダンスを必要としているのも事実だ。さまざまな機能への理解を深めてもらい、そこから得られる価値を最大化するためにも、顧客とのエンゲージメントをさらに深める必要がある。