マイグレーションはリプラットフォームが主流に、ITの外注はビジネスをコントロールしていないに等しい

――リプラットフォームを実現するためにロケットソフトウェアは「Enterprise Server」を提供している。これはロケットソフトウェアがIBMメインフレーム環境を構築しているという理解で良いか。

　当社のEnterprise Serverは、メインフレーム上のアプリケーションをオンプレミスのオープン環境やクラウド環境で動作させるためのソフトウェア群である（図1）。昨今のハードウェアのトレンドは、自動車のSDV（Software Deifined Vehicle）にみられるように、ソフトウェア定義化が進んでいる。それと同様に、Enterprise Serverはメインフレーム環境をソフトウェアで定義した「ソフトウェア定義メインフレーム」だ。ハードウェアはコモディティ（日用品）化する一方であり、最適なものを選べば良い。

図1：米ロケットソフトウェアの「Enterprise Server」の構成

　しかし、物理的なメインフレームとEnterprise Serverではアーキテクチャーが大きく異なる。前者がスケールアップ型のアーキテクチャーであるのに対し、クラウド環境でも動作する後者はスケールアウト型のアーキテクチャーになっている。

　スケールアウト型のアーキテクチャーは技術の進化に伴い、ますます分散型になっていく。企業情報システムにおいても、クラウド型システムやサービスの導入に伴いデータそのものが分散型になっていく。利用したいデータの多様化・大容量化が進む中で、データへのアクセスを考えれば、この進化は理にかなっている。

　データは今後、ますます分散型になっていくだけに、ハードウェアやソフトウェア、そしてデータも抽象化できるかどうかが重要になっていく。

CEOはITの重要さを十分に理解し切れていない

――ところで、DXを進めるに当たり事業部門のエースをDXの推進リーダーに任命するケースがある。事業拡大のためには必要だが、彼らはレガシーシステムの構築過程を知らず「手を付けられない」と言った声も聞く。

　そうした傾向は過去15年ほど同じだ。大規模なマイグレーションプロジェクトになるほど事業部門からリーダーが指名されることが多い。だが、レガシーマイグレーションにおいては失敗する確率を高めているのも事実だ。

　CEOはITがビジネスにおいて、どれだけ重要かを考えるべきであり、まだ十分には理解し切れていない。IT環境をアウトソースすることは、ビジネスそのもののコントロールを失うに等しい。IT環境を変えなければ何も変えられなくなってきているのが現代だ。

　それだけにCEOを含めた経営層は「どこで、何が、どう動いているか」のビジネスプロセスから理解する必要がある。そのうえで、自動化ができる部分を見極め、その変更を実践することで得られる“経験値”を身に付けることが重要だ。

　冒頭で指摘したように、生成AI技術の進展を受けて誰もがAIエージェントに投資している。2、3年もすれば複数のAIエージェントを利用するようになるだろう。これは企業のIT部門でも同様だ。IT部門がAIエージェントを駆使するようになれば、IT環境におけるオーナーシップを確保できるはずだ。

――そうなるために事業部門出身のDXの推進リーダーがなすべきことは何か。

　まず自社と同規模の他社で、自社と同じ課題を抱えながらマイグレーションに成功した担当者の話を聞くことだ。決してITベンダーの話を鵜呑みにしてはいけない。

　当社もITベンダーではあるが、無理には売り込むことはない。むしろマイグレーションに成功した企業の紹介に努めている。商談時も現行システムの状況によっては当社から断ることすらある。断る理由としては、当社がサポートしていないアプリケーションプログラムが含まれているなどだ。