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米シリコンバレーのSAP Labで開かれたWorkshopに見た「デザインシンキング」の実力

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年6月18日

組織への定着に向け体感者を増やす

 そのSAP Labs Silicon Valleyを会場に、SAPジャパンはWorkshopを招待制で開催した。招かれたのは日本企業の経営層や、米国で起業したり現地スタートアップ企業で働く日本人、日本企業の米国拠点のトップなど20人強である。同週頭から米オーランドで開かれていたSAPの年次イベント「SAPPHIRE NOW」から駆けつけたSAPジャパンの内田 会長と福田 譲 社長の姿もある。

 Workshopの狙いは、デザインシンキングの実体験者を増やすこと。福田社長は、その理由を「デザインシンキングの有用性は理解されているが、いざ組織で活用・定着させようとすると長続きしない。デザインシンキングを組織に広められるのは、その価値を体感できた人だけだ」と説明する。

 体感の場として用意されたのは、「SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)」をテーマにしたアイデアソン。3時間弱の設計だから簡易版としての実施である。それに先立ち今回は、d.schoolの創設者の一人である米スタンフォード大のLarry Leifer(ラリー・ライファー)教授がデザインシンキングについて講演した(写真3)。

写真3:デザインシンキングについて講演するd.schoolの創設者の一人である米スタンフォード大のLarry Leifer教授

デザインはチームのメンバーが自律的に行動するためにある

 Leifer教授の講演では、アイデアソン用にデスクに準備されていた付箋紙を「こんなものは必要ないのだ」と放り投げる場面があった。付箋紙は、デザインシンキングにおけるアイデア出しに不可欠なツールとして多用されている。それだけに、SAPのスタッフの間には一瞬、「この後のアイデアソンは、どうなるのか」と固まったかのようにも見えた。

 なぜ付箋紙は不要といったのか。その真意を同氏の講演から抽出すれば、次のようになる。

「コミュニケーションの前提になるのは実体としての“モノ”である。だからこそプロトタイプを作成し、アイデア段階の“あいまいさ”を可視化し、それを共有することで修正が可能になる。ハードウェアの時代からソフトウェアの時代になった今も、現実の“モノ”を作る必要がある」

 シリコンバレーに「TechShop」など工作機械などが並ぶコワーキングスペースが台頭した理由も、ここにありそうだ。つまり、ものづくりへの回帰ではなく、これからのビジネスや社会といった“あいまい”な世界を考えるための可視化ツールということである。

 その背景にあるのが「チームの中のチーム(Team of Teams)」の考え方だ。Leifer教授は、「これからは狩りの時代に戻る。だが1人で狩りに出るのではなくチームとして行動する。しかも、そのチームは誰かの指示の元に行動するのではなく、それぞれが自律的に行動できなければならない」と指摘する。d.schoolでの研究では「複数の役割にまたがって行動できる人材が存在するチームほうが高い成果を出せる」(Leifer教授)という結果が出ているという。

 そのうえでLeifer教授は、「イノベーションへの取り組みにおいて多くは、(どう解決するかの)ソリューションに焦点を当てすぎだ。『問題は何か』という課題に対してのみソリューションが存在することを忘れてはならない」ことを強調した。