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米シリコンバレーのSAP Labで開かれたWorkshopに見た「デザインシンキング」の実力

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年6月18日

架空の人物を対象に解決策を考える

(6)ペルソナを前提に「もし、○○ができたら、こうなる」といった形式の文章を考える。「将来、こうなったら望ましい」という“あるべき姿”の議論が、ようやく始まるわけだ。漠然とした理想論だけでは、事業継続性をもった解決策にはならないということだろう。

(7)2030年を想定し、自らがペルソナの立場になって近況を報告する絵はがきをチームの1人ひとりが作成する。(6)で議論した“あるべき姿”が実現されていれば、ペルソナがどう成長し、これからどう暮らしていくかなどを考える。作成した絵はがきをチーム内で読み上げ、これも共有する。文章だけでなく、絵も描くことがポイントのようだ。

(8)メンバーのアイデアをレビューし、さらにブラッシュアップしたほうが良いものを1つに絞り込む。本当にペルソナの役に立つのか、メンバーの所属企業が、そのアイデア実現にどのように貢献できるかを同時に考える。

(9)絞り込んだアイデアのプロトタイプを作成する(写真6)。プロトタイプ作成の素材として、画用紙やおもちゃの人形、さらにはSAPが開発したという素材集などが用意されている。素材集には、街並みといった風景画や、ペルソナや関係者を示す人型の絵などが入っていた。

写真6:プロトタイピングは、デザインシンキングにおける重要なプロセスの1つ

 ここがLeifer教授のいう「具体的なモノ」を作る過程になる。実際なら動作する機械を作ったりプログラムを開発したりするわけだ。今回は、人形を並べたりするだけだったが、それでも「それならこうしたほうが良い」といったアイデアが出てくるなど、可視化の効果が見て取れた。付箋紙を使ったアイデア出しの過程より、参加者はみな楽しそうでもあった。

(10)各チームの解決策を、それぞれが発表する。

 以上で今回のアイデアソンは終了である。もちろん、SDGsというテーマの大きさに起因する背景情報の不足や、3時間という短さから、すべてのチームが各プロセスを順調に進められたわけではない。時間切れという場面も散見された。

 それでも今回の参加者のプロフィールからすれば、「意見を飲み込む」ような風潮はないだろうから、様々な意見が出され、それぞれが刺激を受けながら議論が進んだようである。各チームについたファシリテーターの存在も大きいのだろう。

個人のアイデアを組織の創造力に変える

 いかがだっただろうか。アイデアソン終了後、参加者の何人かに尋ねたところ「これまで体験したことがない議論の進め方だった。今後も利用していきたい」と同じ感想を口にした。あるベンチャー企業の創業者は「普段は事業計画に沿って行動しているが、もっと考えるべき要素があることが、様々なアイデアや意見から気付かされた」とも話す。

 今回のWorkshopをホストした米SAPグローバルイノベーションオフィスの坪田駆プリンシパルは、デザインシンキングについて、「目的思考に切り替えることが重要だ。イノベーションは、問題を発見するための創造力と、その解決策を具体化する実行力のかけ算で生まれる。デザインシンキングは創造力を高めるためにある」と説明する。

 デジタルトランスフォーメーションへの取り組みは、現状の課題解決もさることながら、テクノロジーの発展を見越して将来の課題解決も視野に入れなければならない。加えて、グローバル展開を図ろうとすれば、地域の特異性なども考慮する必要がある。実際のデザインシンキングでは、こうした点を現地調査なども実施ながら時間をかけて深掘りするという。

 SAPのデザインシンキングでは、付箋紙を使ったアイデア出しやペルソナの設定など、普段も利用しているかもしれないツールや手法もあれば、絵はがきを書いたりプロトタイプを作成したりと興味深い手法もあった。

 また思考のプロセスとして、現状認識から始め、目標とする“あるべき姿”を考えることで未来にまで目線を高めた後に、実際に事業として貢献できる具体的な解決策へ落とし込むという仕組みも盛り込まれている。

 SAPに限らず、デザインシンキングの思想や、そのための方法論などを採り入れている欧米企業は少なくないし、SAP同様に、それを支援するためのサービスを手がける企業も増えている。

 いずれも導入すれば即成功するというツールではないし、Workshopでは見られたかった組織への定着を図るための取り組みも不可欠だ。だが、デジタルトランスフォーメーション時代の組織を生み出すには、より具体的な共通認識と、それを形作るためのプロセス、そしてそれらの牽引者が必要なことは、否定できないだろう。