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米シリコンバレーのSAP Labで開かれたWorkshopに見た「デザインシンキング」の実力

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年6月18日
「SAP Labs Silicon Valley」でのデザインシンキングのWorkshopを終えた参加者

デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むに当たっては、「何にどう取り組むか」を決定するための手法としての「デザインシンキング」が有効だとされる。そのデザインシンキングを体験するためのWorkshopをSAPジャパンが、米パルアルトにある「SAP Labs Silicon Valley」において2018年6月8日(現地時間)に開催した。Workshop終了後、参加者のほとんどが「有益だった。継続して実施したい」と評価するデザインシンキングの価値は、どこにあるのだろうか。

 「SAP Labs Silicon Valley」は、独SAPがデジタルビジネスを立ち上げるに当たり米パロアルトに開設したデザインシンキングの拠点である。従来のERP(基幹業務システム)ビジネスを進める独本社から地理的に切り離し、全く異なる環境で新しいアイデアを持つ人材に自由に発想させた。それが現在のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)関連事業などの新規事業創出につながった。SAPの新規事業はすでに既存のERP事業の規模を上回る。

SAP創業者がスタンフォードに作ったd.school

 SAPにおけるデザインシンキングの起源は、2003年にまでさかのぼる。SAPの共同創業者であるHasso Plattner(ハッソ・プラットナー)氏が、デザインシンキングの研究拠点「d.schoool(正式名称はHasso Plattner Institute of Design at Stanford)」を米スタンフォード大学に30億円もの私財を投じて開設した。

 d.schooolから生まれたデザインシンキングの手法などは現在、SAP社内では当たり前に利用されているという。事業計画立案にも採用しているとするSAPジャパンの内田 士郎 会長は、「デザインシンキングは目的を共有するのに非常に有効だ。『なぜこの目標になったのか』という背景から議論することで“自分ゴト”になり、その実行がぶれなくなる」と、その効果を話す。

 社内の実績を背景にSAP Labs Silicon Valleyは、多くの企業のデジタルトランスフォーメーションを支援するためのWorkshopを開催したり、そこで生まれたアイデアを具体化したりに取り組んでいる。デザインシンキングの手法を使って顧客企業の実ビジネスを開発する「DESIGN & CO-INNOVATION CENTER」や、新規アプリケーションの設計・開発を手がける「App Haus」なども置いている(写真1)。

写真1:SAP Labs Silicon Valleyのオフィス内の様子

 オフィス内のミーティングスペースのほぼすべてには、壁の一面が自由に書き込めるホワイトボード状になっている、デザインシンキングが日常的に実施されていることが、こうした設備からもうかがえる。

 SAP Labs Silicon Valleyとは別に、パロアルト市内にはコワーキングスペースの「HANAHAUS」も開設している(写真2)。ノートPCを前に1人アイデアを練る人々がいる一方、ホワイトボードを前に複数人が集まり課題解決に取り組む姿も見える。関係者によれば、SAP Lab Silicon Valleyのスタッフが、オフィスには出向かず、ここで作業していることも少なくないという。実際、筆者が訪れた際のSAP Lab Silicon Valleyのオフィスには人影がまばらだった。

写真2:パロアルト市内にあるコワーキングスペースの「HANAHAUS」